2026/7/6 公開
この記事は「日本人のための英語発音の練習方法」(2016年公開)の一部を独立させ、再編集したものです。
英語の母音の発音のコツ ― æ・ɑ・ə など日本人の難関母音の出し方
英語の母音の中には、日本語の「アイウエオ」に当てはめただけでは正しく発音できないものが数多くあります。ӕ(cat)、ɑ(hot)、ə(fun)など、日本人にとって特に難しい母音を、舌の位置とアゴの開きに注目しながら1つずつ見ていきましょう。この記事は各母音の「各論」にあたるため、前提として「アゴの開き方」と「舌の位置」を先に読んでおくと理解しやすいと思います。
さて、ではアゴと舌の位置に注意しながら、特に日本人にとって難しい母音について見ていきましょう。
特に問題となる英語母音
ӕ (cat, glass, map, pat)
この発音は、正しいコンセプトを知らないと苦労する音の1つです。ちなみに間違ったコンセプトは「アの口でエ」というものです。
ӕ の母音の舌の位置は、日本語のアイウエオいずれとも異なり、かつ「どれかの中間」ということもありません。ӕ を発音するときの舌の位置は、あらゆる英語母音の中で、最も下に来ます。舌が平たく下に広がった感覚が、ӕ の発音です。そして、日本語のアよりも少し舌全体が前に出ます。
舌がリラックスして広く広がり、下の歯の内側カーブに沿ってぴったりとくっつく様子をイメージしてください。舌の先端は下前歯の裏につき、舌の側面は奥歯に付きます。舌の先も、舌の奥も、べったりと低くなった状態で発音されるのが ӕ です。
アゴの開きは「大」です。声道が広がり、深い音色になります。
「アの口でエ」の問題点は2つあります。1つは、日本語をイメージしてしまうとアゴの開きが足りないのでこの音に必要な深さが出ません。もう1つは、母音の音色は舌の位置でかなりコントロールされるので、口先の「ア」の影響は少なく、結局「エ」にしかなっていないことが多いということです。
二重母音っぽく聞こえる ӕ について
標準米語での ӕ は単一のクリアな音です。二重母音っぽく聞こえる ӕ は「方言」で、多くのアメリカの地域で使われている音ですが、学習者がわざわざ学ぶ必要はありません。「舌を動かしながら発音」しないようにしましょう。
舌は常に動いていますから、それなりに早口で喋っていると、前後の母音や子音の影響を受けた結果、変化しているように聞こえることもあります。しかし、結果として変化しているように聞こえることと、意識して変化させることは全く別のことです。
たとえば、glass は、子音Lを発音するときに舌先が上の歯に付くので、そこから舌を ӕ のポジションに降ろすときの経過音が聞こえやすいです。しかし、mapではそのような経過音は聞こえません。
普通に発音していれば、舌の位置は確かに変化しますが、それは前後の音との関係上、自然とそうなるものなのです。「舌を動かしながら発音する」ようなメソッドはクリアな母音を身につける障害になりますので注意してください。わざわざ難しい方を練習するのではなく、簡単な方を覚えてください。
ɑ (top, hot, song, rock)
「英語のアは口を大きく開ける」とか思っていると、なかなか本来の発音が達成しづらい音です。
ɑ は、日本語のアよりも深い音です。母音の音色の深さをコントロールするのは何だったでしょうか。そう、アゴの開閉度です。
アゴを開いたポジションのまま、日本語のアを発音すると、近い音になります。日本語のアとの音色の違いを覚えてください。
アゴの開き度合いは ӕ と一緒と意識して差し支えありません。ただ、ӕ ほど舌は前に出ません。ӕ と ɑ を交互に発音すると、アゴが低い位置のまま、舌が前後にスライドする感覚になります。
ɔ (all, bought, long, gone)
この音は、ひとつ上の a と「同じ」と考えて差し支えありません。
なぜかというと、近年(アメリカ英語において)この2つの発音は区別しない傾向だからです。
この「口先が絞られない ɔ」は西海岸の方言でしたが、今やそれが標準になりつつあります。特に若い人に、ɑ と ɔ の区別をしない傾向があります。
ɑ が「ア」で ɔ が「オ」と思っているとなかなか理解できないかもしれません。アゴをゆるめると、「ア」と「オ」の境目は分かりにくくなると思います。そのような母音の特性があいまいになる場所にこの音はあります。
- アゴ開け三兄弟 = ӕ, ɑ, ɔ
この3つの母音は、すべてアゴの開きが「大」であり、結果的に"深い"印象の音になります(実際には、後者2つは区別しなくて良いので、2つになります)。
ə (fun, cup, much, love)
シュワといいます。母音の中でも最重要です。なぜ最重要か。それは登場頻度が一番高いからです。
単語の中でアクセントがない音節は原則としてすべてシュワないしその仲間になります(例外は後述の ər )。これをアクセント・リダクションと言います。たとえば成田空港の「Narita」を英語で発音すると「ノリト」のように聞こえると思います。これはアクセントのない最初と最後の音節がシュワになるからです。
それほど難しい音ではありませんが、どうしても感覚が掴めないという方は以下の方法を試してください。
- 口を僅かに開けた状態で歯を合わせ、s------- というように”s” の子音を1秒ほど伸ばし、止めてください。そして、子音の発声をやめたポジションで、アゴの位置も舌の位置も何も変えずに、歯の間をわずかに開け、発声してみてください。それが、シュワの音に極めて近いはずです。これは子音sだけを発声するときに自然と舌がリラックスすることを応用したテクニックです。
シュワを発音するときのアゴの開きは英語 ɑ よりも狭くなります。逆に言うと、ɑ でアゴが開いた感覚を掴んでいないと、シュワの意味が分かりにくい(この2つの区別がつけられない)と思います。
注意点を1つだけ。シュワは「弱くなる音」ではありません。クリアな音です。きちんと前に響かせてください。私が聞く日本人のシュワの多くは、音がくぐもって消えたように聞こえることが多いです。これはなぜかというと、日本語の舌の基本ポジションは英語よりもやや奥にあるので、普通に「リラックス」とだけ言われると舌が奥に行ってしまう方が多いからだと推測されます。
ちなみに、少なくとも標準的なアメリカ人には、ʌ の音とシュワは同じ感覚で発音されています。アクセントが付いた場合に ʌ と表記します。両方とも short U と呼びます。もちろんアクセントがついた結果として、多少違うように聞こえますが、話者の感覚としては同じであるようです。
ɪ (hit, sit, system, build) & ʊ (put, could, good, look)
この2つの音は、上のシュワにとても近い音です。ほとんど同じ、と言っても差し支えないくらい近いです。従って、シュワのポジションを基本とし、そこから変化させて覚えるやり方が身につけやすいと思います。
ɪ は short I とも呼ばれる音で、シュワに少しだけ「イ」のニュアンスを混ぜる感じで発音します。とてもリラックスした感じの出し方で、日本語「イ」とはかなり遠い音です。
ちなみに私の経験上、ニューヨーク近辺出身の人が発声する ɪ の音はシュワとほとんど同一に聞こえることが多い気がします。
ʊ は、シュワからごくごくわずかに口先を絞り、少しだけ「ウ」のニュアンスを混ぜる感じで発音します。
- アゴゆるみ三兄弟 = ə, I, ʊ
この3つの母音は、すべてアゴの開きは中くらいです。「中くらい」ってどれくらいなのか、という疑問が出ますよね。シンプルな回答は「個人差があります」であり、まずは自分の中で区別が付けられれば良いです。このことは後述します。
ər (bird, heard, earth, certain, father, mother)
ər の音は、子音 R の発音と全く同じと考えて構いません(アメリカ英語)。覚えることはなるべく少なくして楽をしましょう。発音のコツは子音 R の項目でフォローします。
余談: さまざまな英語
本記事ではアメリカ英語を対象にしています。イギリス語圏で生活したいなどの理由がない場合は、アメリカ英語の発音を勉強することを私はおすすめしています。なぜなら日本で触れられる英語のコンテンツは圧倒的にアメリカのものが多いからです。またアメリカのコンテンツはとても強いため、世界中で親しまれており、結果的に理解されやすい英語だからです。
アメリカ英語とイギリス英語どちらを選んでも構いませんが、1つ注意点があります。発音の勉強をするとき、教材を混同しないようにしてください。「アメリカ英語の本を使ってイギリス英語を聞く」というのはナンセンスに聞こえるかもしれませんが、残念ながらこれをやってしまっている人は少なくありません。たとえば、BBCはイギリス英語です。これをやってしまうと、学習の効率が悪くなります。
リスニングのために、様々な英語に慣れておくというのは大切かもしれません。しかし、発音の勉強をするときと、リスニングの勉強をするときに必要な対策は異なります。
ちなみに、私個人の意見としては、どちらかの英語にまず基礎を置いたほうが、他の英語のリスニング能力の伸びも早くなると思っています。私は昔、イギリス英語とアメリカ英語をきちんと聞き分けることはできませんでした。しかし、アメリカ英語をきちんと理解した後は、イギリス英語のリスニングはいつのまにか簡単になっていました。正しい発音を身に付けたという自信がついたので、違いがより際だって分かるようになったからだと思います。
u: (food, new, blue, rule)
この音は、一見簡単と思われていながら、日本語とかなり異なる音です(ただ、他の母音と区別がしやすいため、日本語のウでもさほど混乱は招きません)。
日本語のウと違い、口先をかなり絞る必要があります。
このくらいは絞ります。
珍しく、外からの見た目が重要な母音です。
このとき、唇だけに力を込めないように注意してください。唇は柔らかくリラックスしていなければなりません。その代わり「頬を狭める」ということをします。両頬が、歯に近づく感じです。喉の奥から口先まで、細長い筒を作る感じです。
そして、舌の位置も異なります。日本語「ウ」はかなり舌の位置が高いですが、ʊ の舌の位置は日本語「オ」にかなり近くなります。
アゴをゆるめたポジションが身についていれば、簡単でしょう。アゴをゆるめた状態でウを発音するためには、口先をかなり(日本語とは比較にならないほどに)丸く絞る必要があるのが分かるはずです。u の音に必要となる息の通り道の狭さを、日本語は舌を高くすることで達成するのに対し、英語では口内は広いまま口先を絞って達成するような感じです。アゴの開きは、シュワのそれよりやや広くなります。
ちなみに声楽ではよく「ウ」を歌うときは「口の中でオと言いながら口先を絞る」と指導されます。日本語のウは舌根が上がっているので、そのまま歌うと豊かな響きが得にくいためです。ラテン語・英語・イタリア語などの u に近づける努力をしなければなりません。
これ以外の母音はどうするか
ざっと流す程度にして、あまり練習しなくて良いと思います。
なぜか。それは、ここに挙げたもの以外の母音は、他の母音との区別が容易だからです。
たとえば、ほとんどの二重母音は特徴的に聞こえます。ですから、外国人の発音でも、簡単に他の母音と区別することができます(たとえば ai と a を聞き間違えることはほとんどありません)。ちなみに二重母音は単体の母音よりも日本語と特性が近くなりますから、その意味でもトレーニングはあまり必要ありません。aiは「アイ」と考えてもそれほど支障がないということです。
たまに誤解されていますが、二重母音は単に単母音を組み合わせただけではありません。違う音です。たとえば、ai の a の音は、単母音の a の音とは異なります。
また、i とか ɛ とかの母音は、他の母音と周波数特性が大きく異なるため、これらも区別が容易ですし、それぞれ日本語の「イ」「エ」ともかなり近いです。
楽をできるところは、楽をしましょう。
母音というのは、他の音ときちんと区別できるかどうかが大事なのです。
英語の母音を学習するときのコツ
英語母音の正しいポジションを身につけるには、その母音を長く伸ばしながら、その音に必要な筋肉の使い方を覚え込ませるという方法がおすすめです。たとえば dog なら、母音だけを3秒とかそれくらい伸ばして発音してみるのです。一瞬の経過音で練習してしまうと、前後の母音や子音の影響を受けてしまうので、ピュアな音を身に付けるのが難しいと思います。「ゆっくりやれば、正しくできる」を基本にしましょう。ステップバイステップです。
英語母音を身に付けるエクササイズ
母音は自分の中でクリアに区別できることが重要です。ですから、瞬時に言い分けるような練習が効果的です。特に日本人にとって難しい母音について、以下のようなエクササイズを考えてみました。
(1) ӕ - ɑ - ӕ - ɑ
いずれもアゴが大きく開いた音です。ӕ は舌の位置がかなり前に、ɑはそれよりも奥になります。
母音単体で発音の練習をしたら、次は実際の単語でやってみます。たとえば bad(ӕ) - hot(ɑ) - map(ӕ) - song(ɑ) というように。
(2) ɪ - ə - ʊ
これらは (1) よりもわずかにアゴの開きが狭くなります。リラックスして、口の形の変化は最小限にします。アゴはゆるんだポジションのまま、舌をその上に置くだけという感じです。この3つの音は兄弟ですので、極めて近い音がします。
単語ではたとえば hit(ɪ) - fun(ə) - put(ʊ) とか sit(ɪ) - much(ə) - good(ʊ) というようになります。舌の前後の位置が「前-中-後」とわずかに変化することを感じてください。
(3) ɪ - ə - ʊ - ɑ - ӕ
舌の「前後」アゴの「開閉」を両方ともやるエクササイズです。これがよどみなく発音できるようになっていれば、母音の理解はかなりのものと言えます。単語ではたとえば hit(ɪ) - fun(ə) - put(ʊ) - hot(ɑ) - bad(ӕ) というようになります。
母音の各論はここまでです。子音についても同じように、支えとなる呼吸の作り方から難関子音の各論までを「英語の子音の発音のコツ」でまとめていますので、続けてお読みください。