2016/5/30 公開 2017/5/19 更新)

日本人のための英語発音の練習方法

【 このページに書いてあること】

  • 特に日本人が苦手とする発音のコツ
  • 効果的な英語発音の練習法
  • 英語話者らしい英語を発声するコツ
発音

この記事では、英語の発音を身に付けるにあたり足踏みしがちな部分をどのように克服していくかについて書いています。

このページは、私の英語発音に関する研究、アメリカ在住時の知見、そして声楽の知識などから構成されています。私は20年以上にわたり声楽を勉強してきましたので、発声・発音のメカニズムをそれなりのレベルで理解しています。英語はもちろん、ラテン語、イタリア語、ドイツ語、スペイン語、フィンランド語、スワヒリ語、マジャール語、果ては日本語の正しい発音の仕方まで勉強してきました。他言語がうまく発音できないときの原因と対処法は、歌の指導とかなり通じるところがあります。難しい音声学用語はできるだけ使わないように心がけました。このページの内容が少しでもあなたのお役に立てれば幸いです。

このページで解説している発音の話はすべてアメリカ標準英語(Broadcaster English)を対象にしています。別の英語では異なる話かもしれませんので、ご注意ください。

このページの内容はかなり長いです。お時間のあるときにお読みください。

この記事の対象となる読者について

この記事は英語発音中級者以上を目指す人のために書かれています。この記事における中級者の基準は以下の表を参照してください。「海外旅行などでちょっとした意思疎通ができれば良い」というレベルではなく、本格的に英語を使いこなしたい人向けの記事です。

とはいえ、ちょっと読んだだけで改善する即効性のあることも書いていますので、長い記事ですが、ご興味がある方はぜひどうぞ。

英語の発音レベル発展段階

理想的な「通じる」英語発音の実力向上は以下のような発展を辿るべきだ、と私は思います。

段階説明このレベルの人の特徴
レベル1日本語訛りだしリズムも怪しいが大きな声でゆっくりはっきり話すので問題なく通じるシラブルと単語アクセント(※)がほとんどの単語において正しく、かつ母音子音の最低限のコンセプトは理解している。旅行程度の英語であればなんとかなる。
レベル2日本語訛りだが、英語のリズムが身についてきているので、それなりのスピードで問題なく通じる上記に加え、ストレスとイントネーションが身についている。母音と子音についても、理解が深まっている。たまに不自然な発音はあるが、相手は文脈から意味を想像できる。仕事に必要なレベルのコミュニケーションができる。
レベル3相当な早口でも問題なく意思疎通ができる。相手は全く苦労せずに意味を理解できる母音と子音に母国語のクセはほとんど見られず、かつリンキングやリダクションなど高度なルールが身についている。

この記事で想定しているのは、上記の表レベル1と2の中間の人です。英語の学習をはじめて、足踏みしがちな箇所とも言えます。この記事では、このレベルの人に必要と思われる以下の3点のアドバイスをします。

  • 難しい英語の母音と子音のコツ
  • 文章を読んだ時に正しく通じる発音を身につけるための練習方法
  • 英語の発音が楽になる発声方法
※シラブルとは単語がいくつの音節で構成されているかということ。単語のアクセントとは、そのシラブルの中でどこに強勢をおくか、ということです。このことは別の記事でフォローしましたので、よろしければそちらもお読みください。
心が楽になる英単語の覚え方

英語母音の発音のコツ

さて、まずは英語の母音について書いていきますが、このサイトには発音の見本はありませんし、写真やイラスト等もありません。「この記事を読んだから正しい発音が身につく」わけではありません。発音の見本についてはすばらしいものが沢山Web上にありますので、お好きなものを使って練習してください。本来、発音練習は耳で覚えるのが一番です。この記事は補助として使ってください。

しかし残念ながら、多くの人は日本語の発音に呪縛されているので、なかなか耳で聴いただけで音を再現するのは難しいと思います。私もそうでした。

本記事では英語発音の「コツ」をお伝えします。人によっては、これから書くことを知るだけで、それまで苦労していた発音が突然理解できるようになると思います。

ポイント
なるほど!

また、すぐに身につかなくとも、ポイントを意識しておくと、英語を話したり聞いたりするたびに気付きが増え、上達する度合いが異なってきます。

さて、母音を正しく身に付けるためには、そもそも母音とは何なのかを知っておくと効率が良いと思います。

何が母音を作っているのか

母音とは、声帯で作られた音源(ブザーのような音)が、口内で複雑に共鳴して生じる共鳴(倍音)パターンのことです。口内空間の形が変わることにより共鳴のしかたが異なり、結果としてその音色の特徴の違いが母音として知覚されます。

そして共鳴空間に一番影響を与えるのが、舌の位置とアゴの開き方です。口の開け方ではありません。アゴの開き方です。このことを理解せずに、英語の母音を正しく練習することは難しいと思います。

なぜ、アゴの開き方と舌の位置が大事なのでしょうか。以下でもう少し詳しく説明します。

英語発音に必要なアゴの開け方

英語には、「明るい母音」「暗い母音」「その中間」といったように、日本語よりも多彩な母音があります。では「明るいアと暗いア」を、どうやって発音し分けるのでしょうか。その鍵が、アゴの開きです。

母音の明るさ暗さはアゴの開閉度に強く影響を受けます。もう少し正確に言うと、アゴをゆるめた結果として、声帯から口先までの空間つまり ”声道” の断面積が増えます。同じ音の高さでも、サイズが大きな楽器の方が小さな楽器よりも深い印象の音が出るのと同じことです。

では、どのようにアゴを開ければ良いのでしょうか。やり方を以下に解説します。

開けすぎ
まずは顎関節を外しマァース

自分の耳たぶのすぐ後ろに、口を開閉するとちょうつがいのように動く部分があると思います。このちょうつがいの部分をゆるめて、下げてください。「ゆるめる」「下げる」どちらでもイメージしやすい方で良いです。決して開けすぎず、だらっと脱力した、アゴが落ちた状態を感じてください。

ちなみに、アゴは上に向かって開けることはできません。なぜなら、アゴの上側の骨というのはすなわち頭蓋骨だからです。アゴを上に開けていると思いこんでいても、実際には頭が上を向いているだけです。そして、話すときは頭の向きを変えたりはしません。アゴの骨というのは実際には下側にしか存在せず、従ってアゴは下に向かってしか開きません。自分の骨の形を意識してみてください。

この状態で「アイウエオ」を発音すると、なんだかモゴモゴしたはっきりしない音になるはずです。特に「ウ」とか「イ」はかなり発音しにくく感じる方もいると思います。

この、アゴをゆるめた状態を基本のポジションとします。ここから英語の音は作られます。

ほとんどの人は、この状態で発音することに全く慣れていません。ですからはじめは、とても頼りない感じ、正しくない感じがすると思います。しかし、徐々に慣れますから安心してください。

英語の母音は日本語よりも多彩であり、その多彩さに対応するためには、日本語よりもアゴを柔軟に使う必要があります。

「口ではなくアゴ」の理由

口の形だけを意識してしまうと、口先だけ開いて、アゴは逆に緊張して開かずに、正しい音にならないパターンが数多く見られます。この話のやっかいなところは、口を開けた結果として連動してアゴが開く人もいるので、正しい音が出た原因を勘違いしがちなところです。口だけを開いても声道の断面積はさほど増えません。

また、口を大きく開けるようなメソッドで発音を学ぶと、そもそも単語と単語をつなげたり、速く喋ることがとても難しくなります。こちらのほうがより大きなデメリットです。

母音の発音における舌の重要性

以下の動画をチェックしてみてください。これは、人が歌っているところをMRI(磁気共鳴画像)を用いてリアルタイムに記録した映像です。

おそらく多くの人は「舌ってこんなに大きくて、こんなに形が変わるものなんだ……」とびっくりされるのではないでしょうか。母音によって舌の形が変わり、口の中の空間の形が大きく変わっていることに注目してください。母音とは、口内の空間の形によって生じる共鳴(倍音構成)の違いと言いましたが、この動画でも分かるように、舌の位置は口内空間に非常に大きな影響を与えます。

英語の発音において、子音よりも母音の習熟が難しいのは、口内のポジションは外から確認しづらいからです。外からみた口の形は、指導するのも自分で矯正することも比較的簡単ですが、アゴの開きや舌の位置は簡単には見えません。

口の形を変えることによって、それに影響されて舌が正しい位置に多少近付く、ということはあるかもしれません。しかし舌の位置を一切変えずに口の形を変えるということは可能ですから、口だけを意識していては永遠に正解にたどり着けないことがあります。

舌と仲良くなる
自分の舌と仲良くなりましょう

アゴをゆるめた結果として、舌の可動域は広がります。英語の母音は日本語よりも数が多いのですが、それらの母音はどこにあるのでしょうか。日本語の母音同士の間にある音もありますが、日本語の母音よりも外にある音(つまり、可動域を広げた先にある音)もあります。耳だけで聞いていると、なかなかこのことに気付きません。体の使い方を意識することで、発音はぐっと楽になります。

歌手は「耳がいい」のか

自分の身体がどのように構成されているかを知覚する手法を「ボディ・マッピング」といいます。発音を学ぶときは、この感覚がとても重要です。

「音楽をやっている人は耳が良いから、発音も上手」というふうに思っている方はかなり多いのですが、この理解は正確ではありません。「発声器官がどのように動くのか、普通の人より正確に知覚できコントロールできる」人が、発音が得意なのです。耳だけに頼ってはいけません。なぜなら、普通の日本人が英語を聞くと、聞いた発音を自動的に脳が「アイウエオ」のどれかに当てはめてしまいがちだからです。これを感覚の化石化(fossilization)といいます。ちなみに子供は感覚が化石化していないので、発音を聞いたまま覚えられます。大人が発音を学習するときは音だけに頼るのではなく、体がどのように動くのかを併せて理解したほうが、学習が効率的に進むことが多いようです。

さて、ではアゴと舌の位置に注意しながら、特に日本人にとって難しい母音について見ていきましょう。

特に問題となる英語母音

ӕ (cat, glass, map, pat)

この発音は、正しいコンセプトを知らないと苦労する音の1つです。ちなみに間違ったコンセプトは「アの口でエ」というものです。

ӕ の母音の舌の位置は、日本語のアイウエオいずれとも異なり、かつ「どれかの中間」ということもありません。ӕ を発音するときの舌の位置は、あらゆる英語母音の中で、最も下に来ます。舌が平たく下に広がった感覚が、ӕ の発音です。そして、日本語のアよりも少し舌全体が前に出ます。

舌がリラックスして広く広がり、下の歯の内側カーブに沿ってぴったりとくっつく様子をイメージしてください。舌の先端は下前歯の裏につき、舌の側面は奥歯に付きます。舌の先も、舌の奥も、べったりと低くなった状態で発音されるのが ӕ です。

アゴの開きは「大」です。声道が広がり、深い音色になります。

「アの口でエ」の問題点は2つあります。1つは、日本語をイメージしてしまうとアゴの開きが足りないのでこの音に必要な深さが出ません。もう1つは、母音の音色は舌の位置でかなりコントロールされるので、口先の「ア」の影響は少なく、結局「エ」にしかなっていないことが多いということです。

二重母音っぽく聞こえる ӕ について

標準米語での ӕ は単一のクリアな音です。二重母音っぽく聞こえる ӕ は「方言」で、多くのアメリカの地域で使われている音ですが、学習者がわざわざ学ぶ必要はありません。「舌を動かしながら発音」しないようにしましょう。

舌は常に動いていますから、それなりに早口で喋っていると、前後の母音や子音の影響を受けた結果、変化しているように聞こえることもあります。しかし、結果として変化しているように聞こえることと、意識して変化させることは全く別のことです。

たとえば、glass は、子音Lを発音するときに舌先が上の歯に付くので、そこから舌を ӕ のポジションに降ろすときの経過音が聞こえやすいです。しかし、mapではそのような経過音は聞こえません。

普通に発音していれば、舌の位置は確かに変化しますが、それは前後の音との関係上、自然とそうなるものなのです。「舌を動かしながら発音する」ようなメソッドはクリアな母音を身につける障害になりますので注意してください。わざわざ難しい方を練習するのではなく、簡単な方を覚えてください。

ɑ (top, hot, song, rock)

「英語のアは口を大きく開ける」とか思っていると、なかなか本来の発音が達成しづらい音です。

ɑ は、日本語のアよりも深い音です。母音の音色の深さをコントロールするのは何だったでしょうか。そう、アゴの開閉度です。

アゴを開いたポジションのまま、日本語のアを発音すると、近い音になります。日本語のアとの音色の違いを覚えてください。

アゴの開き度合いは ӕ と一緒と意識して差し支えありません。ただ、ӕ ほど舌は前に出ません。ӕ と ɑ を交互に発音すると、アゴが低い位置のまま、舌が前後にスライドする感覚になります。

ɔ (all, bought, long, gone)

この音は、ひとつ上の a と「同じ」と考えて差し支えありません。

なぜかというと、近年(アメリカ英語において)この2つの発音は区別しない傾向だからです。

この「口先が絞られない ɔ」は西海岸の方言でしたが、今やそれが標準になりつつあります。特に若い人に、ɑ と ɔ の区別をしない傾向があります。

ɑ が「ア」で ɔ が「オ」と思っているとなかなか理解できないかもしれません。アゴをゆるめると、「ア」と「オ」の境目は分かりにくくなると思います。そのような母音の特性があいまいになる場所にこの音はあります。

アゴ開け三兄弟 = ӕ, ɑ, ɔ
この3つの母音は、すべてアゴの開きが「大」であり、結果的に"深い"印象の音になります(実際には、後者2つは区別しなくて良いので、2つになります)。

ə (fun, cup, much, love)

シュワといいます。母音の中でも最重要です。なぜ最重要か。それは登場頻度が一番高いからです。

単語の中でアクセントがない音節は原則としてすべてシュワないしその仲間になります(例外は後述の ər )。これをアクセント・リダクションと言います。たとえば成田空港の「Narita」を英語で発音すると「ノリト」のように聞こえると思います。これはアクセントのない最初と最後の音節がシュワになるからです。

それほど難しい音ではありませんが、どうしても感覚が掴めないという方は以下の方法を試してください。

口を僅かに開けた状態で歯を合わせ、s------- というように”s” の子音を1秒ほど伸ばし、止めてください。そして、子音の発声をやめたポジションで、アゴの位置も舌の位置も何も変えずに、歯の間をわずかに開け、発声してみてください。それが、シュワの音に極めて近いはずです。これは子音sだけを発声するときに自然と舌がリラックスすることを応用したテクニックです。

シュワを発音するときのアゴの開きは英語 ɑ よりも狭くなります。逆に言うと、ɑ でアゴが開いた感覚を掴んでいないと、シュワの意味が分かりにくい(この2つの区別がつけられない)と思います。

注意点を1つだけ。シュワは「弱くなる音」ではありません。クリアな音です。きちんと前に響かせてください。私が聞く日本人のシュワの多くは、音がくぐもって消えたように聞こえることが多いです。これはなぜかというと、日本語の舌の基本ポジションは英語よりもやや奥にあるので、普通に「リラックス」とだけ言われると舌が奥に行ってしまう方が多いからだと推測されます。

ちなみに、少なくとも標準的なアメリカ人には、ʌ の音とシュワは同じ感覚で発音されています。アクセントが付いた場合に ʌ と表記します。両方とも short U と呼びます。もちろんアクセントがついた結果として、多少違うように聞こえますが、話者の感覚としては同じであるようです。

ɪ (hit, sit, system, build) & ʊ (put, could, good, look)

この2つの音は、上のシュワにとても近い音です。ほとんど同じ、と言っても差し支えないくらい近いです。従って、シュワのポジションを基本とし、そこから変化させて覚えるやり方が身につけやすいと思います。

ɪ は short I とも呼ばれる音で、シュワに少しだけ「イ」のニュアンスを混ぜる感じで発音します。とてもリラックスした感じの出し方で、日本語「イ」とはかなり遠い音です。

ちなみに私の経験上、ニューヨーク近辺出身の人が発声する ɪ の音はシュワとほとんど同一に聞こえることが多い気がします。

ʊ は、シュワからごくごくわずかに口先を絞り、少しだけ「ウ」のニュアンスを混ぜる感じで発音します。

アゴゆるみ三兄弟 = ə, I, ʊ
この3つの母音は、すべてアゴの開きは中くらいです。「中くらい」ってどれくらいなのか、という疑問が出ますよね。シンプルな回答は「個人差があります」であり、まずは自分の中で区別が付けられれば良いです。このことは後述します。

ər (bird, heard, earth, certain, father, mother)

ər の音は、子音 R の発音と全く同じと考えて構いません(アメリカ英語)。覚えることはなるべく少なくして楽をしましょう。発音のコツは子音 R の項目でフォローします。

余談: さまざまな英語

本記事ではアメリカ英語を対象にしています。イギリス語圏で生活したいなどの理由がない場合は、アメリカ英語の発音を勉強することを私はおすすめしています。なぜなら日本で触れられる英語のコンテンツは圧倒的にアメリカのものが多いからです。またアメリカのコンテンツはとても強いため、世界中で親しまれており、結果的に理解されやすい英語だからです。

アメリカ英語とイギリス英語どちらを選んでも構いませんが、1つ注意点があります。発音の勉強をするとき、教材を混同しないようにしてください。「アメリカ英語の本を使ってイギリス英語を聞く」というのはナンセンスに聞こえるかもしれませんが、残念ながらこれをやってしまっている人は少なくありません。たとえば、BBCはイギリス英語です。これをやってしまうと、学習の効率が悪くなります。

リスニングのために、様々な英語に慣れておくというのは大切かもしれません。しかし、発音の勉強をするときと、リスニングの勉強をするときに必要な対策は異なります。

ちなみに、私個人の意見としては、どちらかの英語にまず基礎を置いたほうが、他の英語のリスニング能力の伸びも早くなると思っています。私は昔、イギリス英語とアメリカ英語をきちんと聞き分けることはできませんでした。しかし、アメリカ英語をきちんと理解した後は、イギリス英語のリスニングはいつのまにか簡単になっていました。正しい発音を身に付けたという自信がついたので、違いがより際だって分かるようになったからだと思います。

u: (food, new, blue, rule)

この音は、一見簡単と思われていながら、日本語とかなり異なる音です(ただ、他の母音と区別がしやすいため、日本語のウでもさほど混乱は招きません)。

日本語のウと違い、口先をかなり絞る必要があります。

口を絞る
このくらいは絞ります。
珍しく、外からの見た目が重要な母音です。

このとき、唇だけに力を込めないように注意してください。唇は柔らかくリラックスしていなければなりません。その代わり「頬を狭める」ということをします。両頬が、歯に近づく感じです。喉の奥から口先まで、細長い筒を作る感じです。

そして、舌の位置も異なります。日本語「ウ」はかなり舌の位置が高いですが、ʊ の舌の位置は日本語「オ」にかなり近くなります。

アゴをゆるめたポジションが身についていれば、簡単でしょう。アゴをゆるめた状態でウを発音するためには、口先をかなり(日本語とは比較にならないほどに)丸く絞る必要があるのが分かるはずです。u の音に必要となる息の通り道の狭さを、日本語は舌を高くすることで達成するのに対し、英語では口内は広いまま口先を絞って達成するような感じです。アゴの開きは、シュワのそれよりやや広くなります。

ちなみに声楽ではよく「ウ」を歌うときは「口の中でオと言いながら口先を絞る」と指導されます。日本語のウは舌根が上がっているので、そのまま歌うと豊かな響きが得にくいためです。ラテン語・英語・イタリア語などの u に近づける努力をしなければなりません。

これ以外の母音はどうするか

ざっと流す程度にして、あまり練習しなくて良いと思います。

なぜか。それは、ここに挙げたもの以外の母音は、他の母音との区別が容易だからです。

たとえば、ほとんどの二重母音は特徴的に聞こえます。ですから、外国人の発音でも、簡単に他の母音と区別することができます(たとえば ai と a を聞き間違えることはほとんどありません)。ちなみに二重母音は単体の母音よりも日本語と特性が近くなりますから、その意味でもトレーニングはあまり必要ありません。aiは「アイ」と考えてもそれほど支障がないということです。

たまに誤解されていますが、二重母音は単に単母音を組み合わせただけではありません。違う音です。たとえば、ai の a の音は、単母音の a の音とは異なります。

また、i とか ɛ とかの母音は、他の母音と周波数特性が大きく異なるため、これらも区別が容易ですし、それぞれ日本語の「イ」「エ」ともかなり近いです。

ショートカット
楽をできるところは、楽をしましょう。

母音というのは、他の音ときちんと区別できるかどうかが大事なのです。次の項目も読んでください。

耳だけでなく体のフォームで覚える

母音の発音には、かなり個人差があります。性差によっても異なりますし、体のつくりやその人の癖によっても異なります。

ですからたとえば、ある人の発声する「オ」が別の人が発声する「ア」と非常に近い周波数特性を持っているようなことは十分考えられることです(そして、実際にそういうことはあります)。

私たちは、純粋な「正しい」母音の響きが存在し、それを獲得するのだと考えがちですが、実はそのようなことはありません。私たちは、その人の持っている母音の特性を瞬時に聞き分け、相対的に「これがアだ」とか「これがオだ」とか判断しているにすぎません。

もちろん、それぞれの母音に通常許される許容範囲はあります。

つまり母音とは相対的なものなのです。ですから、母音については、完全に見本の通りにしようとは考えないほうが良いと思います。いくつかの英語見本音声が、まったく別の音に聞こえて困ったという経験はないでしょうか(私は昔これで非常に悩みました)。違って当然なのです。

ある人の母音を完璧にマネすることにはそれほどの意味がありません。それよりも大事なことは、自分の中で異なる母音を区別でき、それを瞬間的に発音できるようになることです。私達は違いを聞いているのです。耳だけで判断するのではなく、体のフォームを身に付けてください。

正しいフォームを理解するために学習中はやや大げさにアゴを開くことも必要かもしれません。慣れてきたら、アゴの開きの差はもう少し小さくすることができるかもしれません。いずれにしても、差があることが大事であって、差の大きさには個人差があります。

ちなみに私は在米時に2つの合唱団に所属していましたが、両方の団体で、指導者から「それはシュワじゃない!」とか「それは a じゃない!」とかいうように怒られているアメリカ人を多数目にしました。生まれたときからアメリカ英語を喋っている人間同士ですら、母音の響きを統一するのは大変なのです。

英語の母音を学習するときのコツ

英語母音の正しいポジションを身につけるには、その母音を長く伸ばしながら、その音に必要な筋肉の使い方を覚え込ませるという方法がおすすめです。たとえば dog なら、母音だけを3秒とかそれくらい伸ばして発音してみるのです。一瞬の経過音で練習してしまうと、前後の母音や子音の影響を受けてしまうので、ピュアな音を身に付けるのが難しいと思います。「ゆっくりやれば、正しくできる」を基本にしましょう。ステップバイステップです。

英語母音を身に付けるエクササイズ

母音は自分の中でクリアに区別できることが重要です。ですから、瞬時に言い分けるような練習が効果的です。特に日本人にとって難しい母音について、以下のようなエクササイズを考えてみました。

(1) ӕ - ɑ - ӕ - ɑ

いずれもアゴが大きく開いた音です。ӕ は舌の位置がかなり前に、ɑはそれよりも奥になります。

母音単体で発音の練習をしたら、次は実際の単語でやってみます。たとえば bad(ӕ) - hot(ɑ) - map(ӕ) - song(ɑ) というように。

(2) ɪ - ə - ʊ

これらは (1) よりもわずかにアゴの開きが狭くなります。リラックスして、口の形の変化は最小限にします。アゴはゆるんだポジションのまま、舌をその上に置くだけという感じです。この3つの音は兄弟ですので、極めて近い音がします。

単語ではたとえば hit(ɪ) - fun(ə) - put(ʊ) とか sit(ɪ) - much(ə) - good(ʊ) というようになります。舌の前後の位置が「前-中-後」とわずかに変化することを感じてください。

(3) ɪ - ə - ʊ - ɑ - ӕ

舌の「前後」アゴの「開閉」を両方ともやるエクササイズです。これがよどみなく発音できるようになっていれば、母音の理解はかなりのものと言えます。単語ではたとえば hit(ɪ) - fun(ə) - put(ʊ) - hot(ɑ) - bad(ӕ) というようになります。

英語子音の発音のコツ

子音には「支え」が必要

英語における子音のポイントは、「安定した息の流れ」です。

安定した息の流れがないと、一部の子音を正しく発音することは難しくなります。これを声楽の世界では「支え」と言ったりします。

曖昧な用語なのでマジックワードのように使われることもあり、批判も多いのですが、未だによく使われている言葉です。「支え」とは、私の解釈では、呼気と声帯を閉じる力のバランスが取れており、効率的に声帯が振動する状態のことであり、その状態を達成するために必要な筋肉の使い方のことです。ここでは歌唱に要求される筋肉の使い方までは踏み込みません。安定した呼気のことだけ取り上げます。

日本語の発音は、息の流れが途切れていても問題なく発声できることが多いため、この支えが不十分な人が多く、英語発音をするときに苦労する場合が多いようです。一方で、支えには個人差があり(たとえば方言などの影響で)、自然とこの状態ができている人もいます。いわゆる声が通る人は、例外なく支えがしっかりしています。

間違った支え
支えとは筋力のことではありませんので悪しからず……。

支えのチェック

まずは、自分の支えの状態を確認してみましょう。

支えのチェックをするには子音 z を使う方法が簡単です。両方の歯を合わせて息を流し s------ と発音してください。ここに、声帯の振動を合せると z----- という音になります。

この z を発音したときに、1~2秒で声帯の振動がなくなり、z----sss---- と s に戻ってしまう方は、声楽用語で言うところの支えが足りません。ここでの「支えが足りない」というのは「送り込む息の量が安定していない」「喉に力を入れすぎている(声帯が重く振動しにくくなっている)」のいずれかです。

この例でも分かるように、一部の英語子音を発音するには十分に安定した息の流れが必要です。

支えを確保する練習

「リップロール」が取り組みやすいと思います。文章で説明するより、見た方が早いです。以下の動画の1分前後を見てください(イギリス英語ですけどね!)。

声を出している有声の方を使います。補助の指は、使わなくてもできるのであれば、使わなくても構いません。

リップロールは、母音や子音などややこしいことを考えず、リラックスした状態で、安定した息の流れと声帯の振動を追求できる優れたエクササイズです。

いくつかの子音が発音しにくい場合、リップロールをしばらくやった後に取り組むと、劇的に発音が楽になるという人もいます。試してみてください。

リップロールしたあと声を出すと、声が大きく艶やかに(そして何よりも楽に)響くようになることに驚かれるかもしれません。安定した息を流すことは、単純に良い声を出すのに役に立ちます。

さて「支え」を確認したら、注意が必要な子音を個別に見ていきましょう。

特に問題となる英語子音

v (value, vault, vaccine, veteran)

v は下唇を噛む、なんて習いませんでしたか? 口先が忙しすぎてなかなか発音できないのではないでしょうか。

発音の解説サイトなどでは、しばしば単一の子音は強調されています。しかし実際に話すときは、もっと省エネで発音するのです。学習を始めたばかりの段階では、やや強調した方が覚えやすいかもしれません。しかし中級者を目指すのであれば、省エネを覚えましょう。単語単位ではなく、文章を話すとき(つまり、普通に英語を話すとき)は、この省エネ発音ができないと余計な苦労をします。

v を発音するとき、唇はほとんど動かしません。上の歯を下唇に当てます。当てる位置は、唇の乾いた位置と湿った位置の中間くらいのところです。その位置を維持したまま声を出してください。

十分に安定した呼気があれば、これだけで v は発音できます。ちなみに声帯を振動させない場合は f の音になります。

θ (thank, that, this, those)

th も省エネがポイントになる子音です。

毎回「舌を歯で挟」んでいると大変です。th とは「舌と歯の間の摩擦音」であり、摩擦が起きればOKなのです。

舌を、上の歯の裏にごく軽く当ててください。空気をその間から出す感じで(実際にはそこからだけ息が出るわけではありませんが、イメージとして)息を出してください。

有声子音 ð になっても、同じです。

l (like, love , male, all)

LとRの区別が難しい方という方は多いですね。

正直、この2つが区別できないからといって、母音ほど実用上の問題は生じないと思います。が、有名な問題なので取り上げてみましょう。

Lは、舌がリラックスして前歯の裏にぺったり付いた音です。Lで苦戦する人は「舌先が歯の裏に付く」とだけイメージしている場合が多いように思います。

L を発音するとき、舌の緊張は解いて、柔らかく使い、舌先の広い面が前歯の裏に付くようにイメージしてみてください。舌を付けるのは、前歯と歯茎の境目あたりでも良いです(柔らかく使うのですから接触面は広くなります)。

L は歌える子音です。L------ と、伸ばしながら、このリラックス感を保てるように練習してみましょう。舌が緊張すると、途端にRに近い音になってしまいます。

日本語のラリルレロは「弾く音」ですが、英語のL は違います。Lを伸ばして発音できるようになったら、気持ち長めに発音することを心がけてみてください。ぐっと英語らしくなります。

子音単体ではなく、単語の中でのLの発音を練習するときは「口の形を変えない」ことを意識してみてください。たとえば light なら、ai の a の口の形のまま、舌だけを動かします。ここで口の形が変わってしまうと、途端にRっぽい響きになります(舌が口の形に影響を受けて緊張するからです)。

r (run, ride, read, radio)

さて、一方のRでは、舌(の根本)が緊張します。

Rで注意しなければならないのは、舌を奥に巻きすぎないということです。ごくわずかに浮かせるだけで構いません。舌先はあくまで前を向いており、上でも奥でもありません。Lとの区別を付けようとするあまり、不自然なまでに奥に巻いてしまうと、とても聞き苦しいRになってしまいます。

英語を勉強している日本人の発音を診させていただくとき、私が最も気になるのがこのRの子音です。多くは舌を奥に巻きすぎて、喉がつまったような、とても息苦しい声に聞こえます。ある同僚が、突然吐きそうな声を出し始めたので、何か気分でも悪くなったのかと思ったら、単に Or....と言っていただけ、という、笑い話にしていいのかどうか迷うようなエピソードもあります。ごく簡単にLとRと区別させるなら「Rは舌の先がどこにも触れない」とだけするのが最も効果的な指導のように思います。

舌
「ゥゥゥレェェェッド!」
「ママ、そのRは間違いなの!」

子音Rのイメージは舌が「太くなる」です。舌根の筋肉が盛り上がって太くなり、舌先は軽く中に浮いているだけです。舌先を意識しすぎるとこのポジションが正しく得られません。舌の根本が太くなった結果として、上の両奥歯に舌の側面が接触します。R はシュワの仲間であり、アゴの開きはシュワと同じです。舌側面が上の歯に付かないときはアゴを開きすぎかもしれません。

RもLと同じく、歌える子音です。Rの舌の位置のまま、R-----と声を出して、苦しさを感じることなく伸ばせるように、Rに必要な舌のポジションを覚えてください。

RとLは、母音と同じように長く音を出して覚えるのが良いと思います。日本語のラリルレロは「弾く音」なので子音を伸ばすことはできません。ですから、単語だけで練習するとなかなか日本語のクセが抜けないように思います。LとRはそれぞれ子音のポジションで伸ばして練習することで、日本語との違いを意識しやすくなります。

この「有声のR」の感覚が身につくと、Rの次に母音が来るリンキングの感覚もつかみやすくなります。

なおLと同じく、口の形はあまり変えないようにしてください。語頭のRを発声するとき、口先を「ウ」のように絞るとそれっぽく聞こえるというお手軽な矯正方法がよく知られていますが、私はあまり賛成ではありません。まず第一に、それは本来のRではありません。第二に、そのRの発声の仕方では語尾や語中のRが身に付けられません。ər (bird, earth, mother等) の音は、子音Rと全く同じ方法で発音できます。わざわざ覚えるものの量を増やすことはありません。

w (white, where, why, quiet)

簡単そうに見えて、意外とできていない子音の代表格です。

コツは1つ。口先をきちんとすぼめてください。日本語は口先がほとんど絞られない言語です。しかし、この子音 w や母音 u: は、かなり意識して口先をすぼめないと、正しく聞こえません。

口を絞る
もう一度、見た目で確認してみましょう。

なお、wh で始まるスペルのとき、h は発音しません。when は wen, why は wai となります。hを入れるのは昔の話ですので注意してください。

私は2014年までアメリカ西海岸で2年間過ごしましたが、このhの発音は2~3回程度しか聞いたことがありません(わざとらしく強調するとき等)。

s (sink, sea, price, city) and ʃ (she, sure, wish, emotion)

この2つの音の区別はやや難しく、それなりに練習が必要です。ただ、母音と比べると子音の間違いは致命的にはなりづらいです。ともあれ、練習してみましょう。

まず s (sea) の音ですが、さほど難しい音ではないと思います。なぜなら、日本語の「サ・ス・セ・ソ」の子音と同じだからです(日本語「シ」は仲間外れなので注意してください)。ですから s と i の母音が重なる時にだけ、注意が必要です。コツは、舌を下の歯の裏に接触させることです。接触させないと ʃ との違いが曖昧になります。

次に ʃ (she) の音です。この音は「舌と硬口蓋の間の摩擦音」です。硬口蓋と言われてもわかりませんよね。以下の図を見てください。

舌と硬口蓋の間の摩擦音
ここを空気が通り抜ける音です

ʃ を発音するときは、日本語「オ」のように、やや口の両端を絞ります。そして上の歯茎のちょっと後ろあたりに舌を近づけ、その狭いスペースに息が通ることで、この音は作られます。上図で示したあたりに空気が当たる感覚を掴んでください。

おまけ:特殊ルールの多い t (tea, teen, set, get)

簡単そうに見えて、実は一番難しいのがこの t でしょう。実際の発音自体は何ら特別なことはありませんが、特殊ルールが目白押しです。

t は、soft d に変化したり、holdされたり、発音しなかったり、他の子音と組み合わさって別の音になったりします。

たとえば、語末の t はしばしば発音しません。しかし、単に「発音しない」というだけではありません。hold t と言って、舌は子音 L の位置で止まります。今まで流れている息をせき止める感覚です。母音は本来の長さよりもわずかに短くなり、次の音との間にごくわずかな音の隙間が生まれます。この子音を hold する感覚は、息を流していないとなかなか理解できません。流れている息を舌でせき止めるのがこの発音なのですから。単に「発音しない」のとは異なります。

これらの t のルールは、必ずしも全部出来なくても大丈夫ですが、知識として一度でも学んでおくとリスニングのときに大変役に立ちます。

リスニングの時役立つ知識としては他にも、たとえば "ch" っぽくなる t+y, "j"っぽくなる d+u, d+r などの子音の組み合わせがあります。

詳しくは書籍などを参照してください。発音についてのお勧め書籍およびその理由は別記事に書きましたのでよろしければそちらもお読みください。
本当の実力が付く、大人の英語勉強法6つの原則

位置による子音の変化について

英語では語頭の子音、アクセントのある位置の子音はかなり強調して発音されます。

たとえば語頭に t や p, k などが来るときは「気息」といって、息が鋭く漏れる感じを伴います。日本語よりもはるかに強烈な音です。L や R が語頭に来るとき、L の場合、舌がやや前に来て音がわずかに長くなり、R の場合は開始位置で口先が ʊ のようにややすぼまることがあります。語頭の m や n は、語中や語尾に現れるそれよりも強く、そしてわずかに長く発音されます。

強烈な気息音
tttttTalk!

一方で、語尾の子音は一般に弱くなります。たとえば with など th が語尾に来る場合、しばしば軽く息が流れるだけ(無声子音化)になります。語尾に L が来る場合、その前に来る母音にもよりますが、舌先は歯の裏まで届かず「ウ」のような音になることがあります。t, d, b, p などの子音は、特に次の語の頭が子音のとき、舌や唇が弾かれずにその位置で hold されます。

この位置による子音の違いは、英語のリズムを作る上でとても大切なはたらきをします。日本人が早口で英語を話すと、どこが単語の切れ目か分からなくなることが多いのですが、それはこの子音のメリハリが不足していることが大きな理由の1つです。そして、これらの子音の勢いのコントロールは、十分に安定した呼気がないと達成することができません。

母音・子音のコツまとめ

重要なポイントをまとめます。

  1. 母音に強く影響するのは舌の位置とアゴの開閉度。
  2. 英語の発音時アゴはゆるむのが基本ポジション。そうしないと母音の区別が困難になる。
  3. 母音は(特に大人は)、耳だけで覚えるのではなく体のフォームで区別できるようにする。
  4. 子音の発音には安定した息の流れが大事。
  5. 語頭・アクセントの子音は強調され、それ以外の子音は弱くなる。

さて、ここまで母音と子音におけるポイントを解説してきました。今まで誤解していた点がクリアになり、英語らしく聞こえる音が楽に出せるようになっていれば幸いです。

次は、実際の文章を読む中で、身に付けた発音を正しく使えるかどうか慣らしていくプロセスになります。

通じる話し方を身に付ける

「単語単位では正しく発音できるのに、文章になるとどうしても日本人っぽい発音に戻ってしまう」「文章で喋ると頭でイメージしている音にならない」というのが、発音記号の次に直面するステップです。

我々は日本語の発音方法に呪縛されています。日本語におけるアゴの開閉度や舌の位置、息の流し方は、私達が長年慣れ親しんできた常識です。意識しなくても自動的にそのポジションに戻ってしまいます。その習慣を否定するのはそれなりに大変です。発音記号単位、単語単位であれば瞬時のことなので新しい方法ですぐに発音できるという人でも、喋っているとふと元に戻ってしまうというケースが多いです。

舌
呪縛を断ち切る力を身に付けましょう

また、文章の中で話される英語は、発音記号通りとは限りません。ある一つの発音記号で表される音は、その音の前後に挟まれる子音母音、アクセントの有無、文章の中での強意の有無、込められた感情などによって多彩に変化します。

これらは、ルールとして記述することも可能であるかもしれませんが、本気で記述しようとすると膨大になり現実的ではありません。

ですから、発音記号だけずっと練習してもあまり意味がありません。基礎(発音記号)を学んだら、文章を読む練習をする必要があります。

次の項目で、通じる発音を身につけるためのポイントを解説していきます。

余談:どこまで発音を練習するべきか

訛りは消えなくても良い、ネイティブのような発音は達成できなくて良いという立場はよく理解できます。英語で何を得たいかによって、どこまで目指すのかが変わるでしょう。

しかし、まず努力してみて、そこから決めてはどうかと思います。ネイティブのような発音を達成するのが難しいことは事実ですから、全員がネイティブのレベルを目指すというのはナンセンスだと思います。しかし、それを言い訳にして、全く発音の練習をしないのも、また同じようにおかしな態度だと思います。

個人的な感想ですが「発音は難しいからあまり気にしなくて良い」という人は、単にポイントを知らないだけなのでは、と思っています。おおまかに正しい発音を得ることは、正しいコンセプトと練習方法さえ知っていれば、英語学習の中でもそれほど苦労する部分ではないと私は感じています。もっと大変なことは他に山ほどあります。

発音は良いにこしたことはありません。なぜか。それは聞き手が楽になるからです。

多くの人は認めたくないことかもしれませんが、話の内容もさることながら、コミュニケーションに支障を感じる相手とはどうしても距離を置きたくなります。私はいろいろな国の人と英語で話しますが、正直、訛りがきつい人とはなるべく近くにいたくありませんでした。それはこちらがすごく疲れてしまうからです。脳をフル回転させて相手が何を言いたいのか聞き取る努力をしなければなりません。

もちろん私の英語も訛っていますから、相手に何かしら負担を与えていることでしょう。ですから「自分のことを棚に上げて何を偉そうに……」と私自身も思います。

話の面白さや、仕事のできるできないによっては、もちろん相手は(特にはじめのうちは)聞き取る努力をしてくれます。しかし、もし発音に問題がなかったとしたら、特に自分の能力が活きる場面でなくとも、優遇されることがあります。相手から積極的に話しかけてくれたり、仕事上で便宜を図ってくれたり、私は発音が良いことでそのようなプラス面を感じた経験が山ほどあります。

ですから、英語を本気で身に付けたい人は、ぜひ発音にもしっかり力を入れて欲しいと思います。最初に正しいコンセプトを学んでおけば、英語に触れる生活をする中で段々と上手くなっていきます。

英語を通じやすくするためには、以下のことが重要です。

  • ゆっくりはっきり話す
  • 英語のリズムを身につける

原則:ゆっくりはっきり話す

ゆっくりと大きな声で喋ると、発音がいまひとつでも、きちんと通じます。それは、ゆっくり話しているから、間違った発音を脳内で修正する余裕が聞き手に生まれるからです。発展途上の学習者は、すべての単語を正しく発音できる保証はありません。発音が間違っているという前提で、伝わるように意識する必要があります。

ゆっくり、はっきり、大きな声で。これだけで大抵は通じるようになります。自信がないうちは難しいことかもしれませんが、これはむしろ相手への思いやりなのだと思ってください。

根拠もなく自信を持つことは、ある人にとっては簡単なことですが、一部の人にとっては難しいことだと思います。私もそうでした。単に「恥ずかしさを捨てろ」と言われても「いやそれが簡単にできない人間も居るんだよ……」って感じでした。なので、そういう人は発音の練習をきちんとしてください。練習は、間違いなく自信につながりますから。

英語の母音と子音の理解が深まってくると、実は自然と声量は増えるものです(このことは後述します)が、そうでないうちは、意識して大きな声を出すというのが簡単な対策になります。

急いだ方が良いこともある
おひるごはんはー、おうどんがいいー!

体験談:英語で漫才

私は先日ひょんなことから吉本興業の芸人さんたちが英語で漫才をするのを見る機会に恵まれました。みなさん英語の発音は正直あまりよくありませんでした。しかし、全員が全員、大声で、ゆっくり、はっきりと発音していました。リンキングも何もあったものではありませんでしたが、内容はきちんと理解されていて、舞台として完璧に成立していました。さすが吉本だ、と思ったものです。

英語のリズムで話す

明らかに日本語訛りの英語で早口で話すが、不思議と通じている――成人してから海外に住んで英語を身につけた人の中に、こういう人がいることがあります。

こういう人は、いわゆる「英語のリズム」に従って話しています。それぞれの言語には特有のリズムパターンがあり、そのパターンに沿って発声される言葉は、聞き取りやすく(訛りがあっても、聞き手の頭の中で正しい言葉に修正しやすく)なります。

聞き手に負担が全くないわけではありません。念のため。

ここで言う「英語のリズム」と言われるものの正体は、ストレスとイントネーションです。

ストレスとは、文章の中でどの言葉が強く発音されるかということ。イントネーションとは、全体の抑揚のことで、文章全体に現れる音の高低のパターンのことを言います。この2つを合わせて「英語のリズム」と呼ぶ人もいます。

ストレスの例

hold t の概念を覚えると、I can swim. と I can't swim. をどのように聞き分けるのか疑問に思う人が多くいます。もちろん、hold t の僅かな音の隙間でも聞き分けられますが、実はもっと分かりやすく変化します。

I can の場合は、強勢は I と swim に置かれます。I can't の場合は、can't の部分に強勢が置かれます(さらに、アクセントが置かれた can't の母音は ӕ になり、アクセントがない can の母音はシュワになります)。

正しい英語のリズムで話すことで、聞き手が文脈を理解しやすくなり、話す内容は理解されやすくなります。

次の項目では、英語のリズムをどのように身に付ければいいのかを解説します。

ストレスとイントネーションの練習方法

残念ながらショートカットはありません。単純な結論を言います。

見本を聞いて、マネして、自分の録音をチェックする

言っていることはごく単純です。ところが私の経験上、この練習をしている人はほとんどいません。

この練習には、驚くほどの効果があります。騙されたと思って、一度やってみてください。自分の声があまりにもイメージとかけ離れていることに最初はへこむかもしれません(私は最初かなり落ち込みました)。

私の英語ひどすぎ
うわっ・・・私の英語、
ひどすぎ・・・?

ストレスとイントネーションは、ある程度知識として学ぶこともできますが、最終的には実践しないと身につきません。また、文章で説明できないほど細かいルールが沢山あり、なかなか読むだけですぐ「納得!」とはなりにくいです。耳から入れて、マネして身に付けるのが一番だと思います。

練習には、会話体の文章が良いでしょう。ドラマでも、ポッドキャストでも、好きなものを使ってください。

口の筋肉を慣らす意味でも、たくさん音読をしましょう。そのうち、意味も入ってくるので、文法感覚も磨かれていき、複数の単語を1つの塊として認識できるようになってきます。

音読の効果や英文法の学習法については別記事に書きましたのでよろしければそちらもお読みください。
英語がスラスラ出てくる英文法の勉強のしかた

英語らしく聞こえる発声について

※ ここから先は「通じる発音」以上を目指す人のための情報です。

英語らしい発声とは、どのようなものでしょうか。みなさんはそれぞれ「低い声に聞こえる」「流れるように発声している」「声が大きい」というような印象をお持ちかもしれません。なぜ、このような違いが生まれるのでしょうか。

これらの声質の違いは、今まで述べてきた英語の発音のコツと深い関係があります。言い換えますと、正しい方法で母音と子音を発声していると、自然と英語らしい声になってくる、とも言えます。

まずは「声の大きさ」を手がかりに、英語と日本語の発声方法の違いについて解説してみましょう。

体験談:声の大きなアメリカ人

私は初めてアメリカでレストランに入ったとき度肝を抜かれました。その音の圧力にです。日本でも、たとえば居酒屋などで大勢が騒いでいるとうるさいと感じるものですが、それとはまったく違う質の音圧でした。別に大声で喋っているわけでもないのに、耳にかかる圧力が半端ではありませんでした。なんて声が大きい人たちだろうと、ほんとうに驚いたのを覚えています。そしてそのとき「アメリカ人の声が大きい(通る)のはなぜだろう?」という疑問が生まれました。

皆様の中にも、たとえば会議の場や電車の中などで、英語話者が話している声がとてもよく通ることに気付いた方がいらっしゃるかもしれません。

体格の違いかも、と最初は考えていましたが、どうも違うようです。たとえばアジア系人種でも、アメリカで育つと通る声になります。小さな体格の人でも、声はとても響きます。

声の大きさを構成する要素

さて、そもそも声の大きさとは何でしょうか。

声の大きさは、以下の2要素で決まります。

  • 音源(声帯で作られたブザーのような音)の大きさ
  • 音源が口内空間で反射して生じる共鳴の大きさ

英語話者の声が大きく聞こえるのは、この両方が影響しています。以下の項目で個別に解説します。

アゴをゆるめると声は深く豊かになる

英語の母音を発声するために必要なアゴの開きは、豊かな共鳴を生み出します。

開けすぎ
アゴは大事デェース

アゴをゆるめると、声帯から口先までの空間 ”声道”の断面積が広くなります。この結果、声は広い空間でより共鳴するようになり、声のボリュームが増えます。

アゴをゆるめるということは、実はクラシック歌唱においてよく指導に使われるメソッドでもあります。それはなぜかというと、共鳴空間を拡げた結果として、音が深く豊かになり、ホールによく響く声になるからです。たとえば、クラシック歌唱において要求される「ア」の母音の出し方は、英語の ɑ の母音発音に求められることとかなり近いものです。

また声道の断面積が広がると、たとえば小さな楽器よりも大きな楽器の方が深い音がするように、音色は深くなります。英語話者の声が低く感じる原因の1つはこれです。

声の高さを印象付ける要素としては、音源の高さと、構成する倍音要素の両方があります。アゴをゆるめると低い倍音が増えるため、声帯が同じ高さの音を出していても、声の印象は低くなります。

余談:日本人歌手の負っているハンデ

この口内スペースの差は、声楽においても大きな影響があります。一般的に言って、日本人が発声するときの口内スペースは狭いです。口内の共鳴空間をうまく使えておらず、多くの日本人歌手は豊かに響く声を得るのに苦労します。日本人は言語的に(西洋音楽における)歌を歌うことにハンデを負っているといっても過言ではないと思います。

この項目では声量の2要素のうち「共鳴」を解説しました。次に、共鳴する元となる音、声帯で発する「音源」について解説します。

安定した呼気で声帯は効率的に振動する

強い息を流すと、音源のボリュームは大きくなります。英語子音に必要な息の量は日本語のそれよりも大きいため、必然的に英語では声は大きくなります。

ところがここに2つ疑問が生まれます。まず、日本語でずっと大声で話していると声が嗄れてしまいますが、英語話者は声帯が特別に丈夫なのでしょうか。また、息をそんなに使うと、すぐに息切れしてしまわないのでしょうか。

結論から先に言うと、安定した呼気を流すことで声帯は筋力を使わなくても効率的に振動するようになります。ホースの先をつぶすと、水量が少なくても、水は勢いよく飛ぶようになりますね。そんな感じです。……といっても、どういう意味なのかさっぱりだと思いますので、まずこの2つの言語の特徴の解説から始め、英語発声の秘密に迫ってみましょう。

軽く流す感じ
声は呼気に乗っていきます

英語の発声では声帯筋がリラックスし、ずっと息が流れています。これに対して、日本語の発声は、声帯筋が緊張して息が途切れがちです。理由として考えられるのは以下のようなものです。

  1. 英語にはリンキングがある
  2. 日本語には息を止める音が多い

リンキング(リエゾン)

英語は日本語よりも子音が多彩であり、語尾が子音で終わることが多いです。そして語尾の子音は、しばしば次の単語の母音とつながったり、別の子音と同化したりします(リンキング)。リンキングが必要だから息が流れているのか、それとも息が流れているからリンキングするようになったのか、歴史的なところは私には分かりませんが、いずれにしても英語においては音の「切れ目」が少なく、ずっと鳴らし続ける傾向があります。

これに対して日本語は、語尾に子音が来ることが少なく、結果として、日本語の語尾の発音は尻切れトンボというか、よく弱い音になります。たとえばこの前文で「少な」「とし」「という」「なりま」という部分の語尾はそれぞれとても弱い音になります(息が減少し、声帯の振動が止まります)。

これに対して英語では、アクセントがない音節はシュワになりますが、音が消えたりはしません。母音の項目で「シュワは決して弱い音ではない」と述べました。語尾にシュワが来たとしても、尻切れトンボのように音が消えてしまってはいけません。きちんと最後まで発声されます。

止まらない流れ
音は止まらず、ずっと流れています

また、母音ですらもリンキングしやすいように変化することがあります。たとえば I am は [ai ӕm] ですが、間に y が入って [ai y-ӕm] と発音されます。

日本語には息を止める音が多い

声帯の一部は随意筋ですので、自らの意思で収縮させることができます。声帯は、声帯筋を収縮させることで、随意的に閉じることができます。

たとえば、日本語の促音(小さい「っ」)は、この一例です。英語話者が日本語を勉強すると「がっこう」となかなか発音できません(「ガコウ」のようになります)。また、日本人が「危機」と発音するとき、2つのイ母音の間は自動的に区切られますが、英語話者がこれを普通に発音すると、間が区切られずに「キィキィ」のように聞こえます。

日本語にはこのような音が多く、結果として、日本語は声帯の緊張が比較的強い発声方法と言えます。

日本語では「語尾の母音が弱くなることによって声帯の振動が途切れ、次の単語の頭で再度声帯が緊張する」というように、声帯が re-activate しやすい言語です。1つ1つ、ふいごで吹いている感じとでも言いましょうか。

これに対して、英語の発声というのは「息が勝手に声帯を閉じる」というものです。ボールが坂道で勝手に転がり出す感じと例えられるかもしれません。以下にもう少し詳しく説明します。

息の流れがもたらす効率性

そもそも声帯とは一体どういう仕組みで鳴っているのでしょうか。

声帯はひだ構造をしており、その両端が近寄ったところに呼気が通ることで高速振動を起こし、音になります。たとえば、声帯が1秒間に440回振動すると、それは鍵盤上のラの音になります。

この声帯ひだを「合わせる」方法は、筋肉以外にもあります。それが、息の力です。息を流すと、声帯間にベルヌーイ効果という力が働きます。

ベルヌーイ効果を簡単に体験するための実験があります。紙を二枚、縦に平行になるように両手で持ち、その間にフーと息を通すと、2枚の紙は近づきます。これは、息によって発生した気流が両方の紙の間の気圧を下げるためです。これと全く同じことが、声帯にも起きます。以下の動画はベルヌーイ効果を説明するためのものです。

声帯とは筋肉だけで閉じるものではなく、日本語の発声時においてもこのベルヌーイ効果によって閉じられていますが、英語では比較的呼気のバランスが強いといえます。

つまり、安定した息を流していると、勝手に声帯を閉じる力が働くので、筋肉を必要以上に緊張させる必要がなく、声帯は効率的に振動し、いわゆる「軽く通る」声が出るようになるのです。リップロールをした後に声を出すと、発声が楽になるのは、このためです。逆に、重い質量(緊張した声帯)は振動を妨げ、響きを阻害します。

私が「強い」呼気ではなく「安定した」呼気とずっと言っているのはこのためです。「強い呼気」と言ってしまうと、日本人はしばしば強く声帯を緊張させてしまいます。結果として、無理やり大声を出すような不自然な感覚になり、納得感が得にくい上、声帯筋に負担がかかり疲れてしまうので、結局自分にとって自然で楽な元の日本語のポジションに戻ってしまいがちです。別の言い方をすると、喉の力を抜くというのは、安定した呼気とセットになって、初めて達成できることなのです。

安定した呼気を使って発声をすると、声帯筋にかかる負担が減り、子音が聞こえやすいように息の勢いを増やし、声を大きくしたとしても、喉が疲れることがありません。これが、英語話者の声が大きい2つ目の理由です。彼らの喉が生まれつき丈夫なのではありません。ですから、我々日本人でも身に付けることができます。

ゆるんだアゴの開きと安定した呼気を意識し、さらにそこに「声帯筋の緊張を解き、喉をリラックスさせる」イメージを追加することで、英語らしい発声に段々と近付いていきます。

まとめると、以下のようになります。

  1. 開いたアゴのポジションは豊かな共鳴と深い音色をもたらす
  2. 安定した呼気は声帯の効率的な振動をもたらす
  3. 声帯の緊張を解き、気流に任せるように発声することで、苦労せずに息を増やせる

おわりに

発音とは相手への思いやりです。可能なかぎり、理解されやすい言葉で話したいものです。

そのための処方箋はすでに述べました。

  • 初心者:ゆっくり、はっきり、大きな声で話す
  • 中級者以降:アゴの開け方、舌の位置に注意してメリハリのある母音を身につける。安定した呼気によりクリアな子音を身につける。たくさん聞き、文章を話すことで英語のリズムを身につける。
  • 上級者:声帯の緊張を解き、呼気が勝手に声を鳴らす感覚を身につける。

正しいノウハウが広がり「日本人の話す英語は分かりやすい」という世の中になることを心から願っています。