英語SENSE(センセー)Q&Aコーナー

このコーナーについて

英語学習については様々な悩みがあると思います。このコーナーでは、皆様の英語に関するギモンに何でも回答していきます。

私自身もこの質疑を通して勉強させて頂きたいと思っています。つまり、現時点で私にとって確信が持てないことであれば、きちんと調べて回答をします。英語を話す日本人やネイティブスピーカーの友人の助言、Web上の情報源、書籍、論文、とまあそこまで行くかは分かりませんが、とりあえずの意気込みとしては、ちゃんとやります。

一方で、あくまで無料相談ですので、私は回答について責任は取れません(といっても、結果に対して責任が取れるアドバイザリーはこの世に存在しないと思いますが……)し、そこまで厳密に調べるかどうかは保証の限りではありません。私の気分で変わるかもしれません。あくまで1つの読み物として扱って頂ければ幸いです。

あまりにも漠然とした「調査依頼」は実質の回答が不可能になる可能性があります(たとえば「一番良い参考書について教えてください」など)。また、私が主観で「面白い」と思った質問順に回答していきますので、必ずしも回答が保証されているわけではありません。

そんなゆる~いコーナーです。すみません。あまり難しいことを考えずどうぞお気軽にご質問ください。

このコーナーはオープンしたばかりで、しばらく閑古鳥が鳴くことが予想されますので、何でも送ってくださると嬉しいです。

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いままでに頂いたご質問

藤村高寛さんが英語でお話しされているところを観られる動画、もしくは英語で書かれた文章を拝見できるところはありますか? 英語を教えてみえる方のブログやサイトはたくさんありますが、その方が英語で発信している様子を見られるものがあまりないという印象をいつも受けるのがとても気になります。(それがわからずしてどうして申込みできるのだろう?と…他意はありません。素朴な疑問です…)(akoさん)

ありがとうございます。このコーナーを始めて本当に良かったです。このような本音の意見は貴重です。私も本音でお答えしようと思います。

内容を拝見する限りでは、記事の信憑性に疑問があるというよりも、このサイトで提供しているサービスのお申し込みを検討して頂いており、その後押しが欲しい、という感じなのですね。検討頂いてありがとうございます。

さて、短いバージョンの回答を先に。今すぐ見られるものがあるとしたら、Facebookの投稿くらいだと思います。在米中は基本的に英語で書いていました。帰国後はさすがに頻度が減ってしまいましたが、たまに書いています。FBのアカウントがあれば友人になっていなくても見られますので、もし興味があれば覗いてみてください。2013-2014あたりが英語多めです(スマホでは無理かもですが、デスクトップ版なら年を指定できます)。金魚詐欺の話とか、奥さんの髪の毛燃えたあたりの話がおすすめです。最近で比較的長めのだとこれとか。喋っているビデオはたぶん無いです。近いのは英語で歌っている動画くらいかな……。

さて、ここから先はおまけとして、私が英語で発信することにそれほど積極的ではない理由を少しだけ書きます。

まず第一に、何を書いたり喋ったりすれば良いのかわからないです。英語SENSEは日本人のための情報提供をするサイトです。私が情報を発信したい先は日本人であって英語話者ではありません。

私の本業は米国ギフトブランドのブランディングです。英語で発信する頻度が一番高いのはこの仕事関連ですが、もちろん内容は公開できません。

第二に、私は英語力を売りにしているのではなくて、教える力を売っています。

文法講座については、私は「問題点をまとめる能力、分かりやすく説明する能力」を売っています。日本人が誤解しやすい部分の英文法項目について「このような解釈の仕方をすれば分かりやすく理解できる」「英語話者はこのように思考している(だから、難しい文法項目を意識せずに使える)」というようなことを教えています。これは、単に英語ができるだけの人には教えられない内容です。

添削・ライティング講座の売りは「説明能力」「良い文章を書く力」「ノウハウ」「調査能力」です。文法講座は時間が限られていますので全てのポイントはカバーできませんが、添削の場合はとことんお付き合いできます。添削には「より良い表現を考える」プロセスが欠かせません。良い国語力とでも言いましょうか。私はこの点かなり深く勉強しています。ロジカルにライティングを構成する方法は、もちろん単に英語ができるだけでは教えられない内容です。調査能力というのはちょっと分かりにくいかもしれませんが、たとえば私は知らない英語表現にあたったとき、その分野をリサーチして正しい表現を確認したりしています(これは、通訳の人がやっていることと全く同じです)。

教える能力というのは、教える人の実力を超えて成長させることができます。もちろん、実力が全ての基礎になることは間違いありません。しかし「内容」以上に「教え方」が大事なのだと、私はそう信じています。

たとえばの話をします。日本語ネイティブでない教師が、日本語以外の母国語話者に「良い日本語の書き方」を教えられるかというと、私は教えられると思います。この点に同意いただけないと、もしかしたら理解は難しいかもしれません。

もちろん、これらを教えるにあたって必要最低限の英語力というものはあるでしょう。しかしそれは、試して頂ければすぐ分かるのではないかと思います。すべての講座では何らかのお試しができるようになっています。試してダメだな、と思ったらキャンセル頂ければ良いと思います。添削であればサンプルもお見せできます。

ちなみに私のスピーキング能力は、ライティング能力ほど高くはありません。準備したスピーチならともかく、リアルタイムでの会話で日本人らしさを匂わせないことができるかというと、そんなことはできません。つっかえてしまったり、文法を間違ってしまったりします。私は書き言葉の方が得意です。文法とライティングにフォーカスしているのはそのためです。

いろいろな英語話者と話す限りでは、ネイティブと遜色の無いレベルのスピーキング能力を大人になってから得るには、英語圏で最低15年程度は生活しないといけないように思います。しかしこのようなことはほとんどの人が理解していないことです。

たとえば、もし私が英語で話している動画をここに公開したら、質問者様はがっかりされるかもしれません。もちろん、やってみないと分かりません。人によっては、流暢そのものに聞こえるかもしれません。どちらにしても、そんなリスクを犯す必要はないなーと私は思っています。ここにこんなことを書いている時点で遅いかもしれませんけど。

私の英語力はネイティブレベルではありません。しかし、それなりの英語力と、それ以外の能力を組み合わせ、ここにしかない内容を提供しています。英語力を証明するために英語で発信するといった必要性は感じていませんが、別に隠す必要もないと思っています。(2/27/2017)

質問があるのですが、顎を下げるというのをやってみたのですが、なんというかちょっとアントニオ猪木?のようになってしまいます。これで良いのか、それとも間違った下げ方なのでしょうか?(タカシさん)

A. ご質問ありがとうございます。実際に試して頂いて、かつ質問までして頂くというのは非常に素晴らしい行動力です。行動している時点ですでに勝っているようなものです。きっとすぐに上達されることと思います。

さて、アゴに関しては、「ゆるめる」とか「下げる」といった言い方をしてみましたが、もしそれが理解しづらい場合は「口先を開けすぎないようにしながら、奥歯と奥歯の空間を少し空ける」というのを試してみてください。

日本語の発音では、咬筋が緊張していることが多いです。咬筋は、両頬の位置にあり、下顎骨と頭蓋骨につながっています。奥歯と奥歯が合わさるあたりを指で触って確かめてみてください。この「咬筋の緊張を解く」のが大事です。筋肉の緊張をゆるめて、アゴをもっと柔軟に使えるようにするのです。咬筋を緩めるとアゴは重力に従って勝手に落ちます。

アゴの蝶番部分にひっかかりを感じて、開けたり閉じたりするのに違和感を感じるようであれば、それはおそらく下げすぎです。アゴの開きの違いというのは実際のところ、気づいてしまいさえすれば、非常にわずかなものです(違いを意識するために最初は大げさにやってみるのも良いかもしれませんが)。

「アントニオ猪木のような」というのが実際にはどのような状態を表しているのかは、文面からは判断できません。しかし、常に意識しておいて頂きたいのは、最終的に目指すのは自然でリラックスした状態なのだ、ということです。

英語のポジションが日本語と違うのは事実ですから、アゴをゆるめたポジションは確かに最初のうち「自然でない」感じがすると思います。しかし「自然でない」と「明らかに不自然である」の間には大きな違いがあります。同じ人類、体の作りはそう違うものではありません。「明らかに不自然」と感じたならば、それはまず不正解と考えて良いと思います。

もしかしたらタカシさんが誤解されているかもしれないことは「アゴの下げかたについては(あるいは何事にも?)唯一の正解がある」ということです。

アゴをゆるめると良いというのは、英語の母音を発音し分ける方法が分からない人に対して(あるいは、発音の仕組みについて誤解されている人たちへの)の治療法の1つです。そして、その効果というのは、おそらく「一瞬で分かる」タイプのものです。「あ、なるほど! これで確かに区別しやすくなるな」となれば、その時点でもうゴールは達成できています(英語の発音練習の第一のゴールは、複数の母音を自分の中でクリアに区別できるようになることです)。

アゴをゆるめれば英語の発音が勝手に正しくなるわけではありません(実際に聞いてみないと判断できません)。必要な対処は人それぞれです。タカシさんがアゴに課題を抱えているかどうかは、分かりません。もしかしたらアゴよりも舌の位置や唇の使い方に課題があるかもしれません。

アゴ発音というのは、ヒントの1つとして、あまり大げさに考えすぎないようにすることをおすすめいたします。あくまで、ご自身の目的を達成できているかで判断してください。実際のネイティブスピーカーの声を聞いたりして、感覚とアウトプットが合っているかどうかを平行して確認してください。耳で聞いた感覚、自分で発声したときの感覚、そしてその時に自分の体がどのように動いたかの感覚、この3つをすべて一致させるのが最終的なゴールになります。

まとめます。アゴを開く方法というのは、壁にぶつかったときの対処法の1つです。この壁には相当な割合の日本人がぶつかっていますが、全員とは限りません。「どの程度開けば良いのか」については、ご自身の理性と感覚を信じて、効果がある度合いを探ってみてください。しかし、おそらく思っているよりはわずかなものでしょう。(10/11/2016)

顎を下げるというのは、解剖学的に存在する事実ですか、それとも主観的な感覚でしょうか。(スカイさん)

A. これまた、最高の質問をどうもありがとうございます。最高というのは、その点について書く機会をいただけたという意味です。

ご質問の内容を言い換えると「英語の発音はアゴを下げると良いというのは、学術的に何か裏付けがあるのでしょうか」ということですね。もちろん、あります。

フォルマントについて

まず「母音とは何か」で説明した内容をもう少し掘り下げてみます。母音は1.アゴの開き 2.舌の位置でほとんど決まる、と書きました。このように書いた理由は「フォルマント」という事象に基づいています。

声帯で発された音が、声道(声帯から口先までの空間のこと)を通り抜ける際に共鳴した結果が、通常わたしたちが耳で知覚する人の声です。声帯で発された音は、音声学では音源(Voice Source)といいます。この音源は、母音の特徴を持っていません。「ブー」というブザーのような音です。音源は、いろいろな高さの音(倍音)が混ざり合った音ですが、高い倍音ほど音量は小さくなりますので、通常は基音(一番低い音)の高さのみが知覚されます。音源は、声道を通り抜けるときに、声道の形に依存して共鳴します。どういうことかというと、特定の形の声道は、音源に含まれている倍音のうち、特定の周波数の音だけを強化します。言ってみれば、フィルターのように働くと言って良いでしょう。声道のフィルターを通った後の音は、そのときの声道の形状によって、特有の周波数にピークができます(特定の周波数の音量が大きくなります)。このピークのことをフォルマントと言います。

フォルマントは、周波数から低い順に、F1,F2,F3,F4,F5...と複数あります(周波数のピークは複数できます)が、母音の特徴はほぼF1とF2で決まることが分かっています。このことは簡単に実験できます。声を録音して、そこからF1,F2の周波数を取り除いた音がどう聞こえるかを聞けばよいわけです。私もソフトウェアを用いて実験してみましたが、F1とF2付近の音を消すと見事に母音の特性が消えてしまい、何の母音を喋っているか全くわからなくなります。

F1はアゴの開きに強く依存することが分かっており、F2は舌がどのように声道を狭めるかに依存することが分かっています。母音は「1.アゴの開き 2.舌の位置でほとんど決まる」と書いた理由は、このような音声学の知識に基づいています。

口ではなくアゴである理由

アゴを開けると、舌の位置が下がり、口腔下部の容積が減り、口腔上部の容積が増えます。このことは解剖学的な事実です。口の開きは、当然ですがアゴの開きにほぼ依存します。口を開くには、アゴを開かなければなりません。

ただし逆は真ではありません。アゴの開きをコントロールする筋肉が緊張していると、口先は開いてもアゴは十分に開きません。これは日本人に特有の現象です。このことを調査した学術論文は、私の知る限りではありません。ですから「日本人はアゴを緊張させがちである」というのは、私がいろいろな人の発音を診させて頂く中で発見したことです。ただしこの点については、学術的に正しいかどうかはさほど問題ではないでしょう。なぜなら、あなたがアゴを緊張させているかどうかは、アゴを緩める発声を試して改善するかどうかですぐ分かることだからです。口先を開かずにアゴを開くことは可能です。口先(唇)を閉じたままアゴをゆるめることができるということは、やってみればすぐ確認できると思います。

アゴの緊張が取れている前提であれば、口を大きく開けることは結果的にアゴを開いていることになり、口の中で起きている現象は同じと言えます。しかし、口先を大きく開けると、子音の発声に余計なエネルギーを使うことになります。たとえば ma'am(ご婦人・お嬢さん)と発音をするときに「この母音は口を大きく開ける」と覚えていると、口を開けたり閉じたりするのが大変ですし、不要な経過音が聞こえてしまう原因にもなります。アゴ発音であれば、このような問題はありません。余計なエネルギーを使わなくてすみ、特に速いスピードで話すときが楽になります(速く話す時は、より素早く口を開け閉めしなければなりませんから)。

英語の多彩な母音に対応するためには、口内の可動域を増やす必要があり、かつ英語の強い子音に対応するためには、最小限の動作で子音のポジションを得なければなりません。このことを合わせて考えると、口先を開きすぎずにアゴを開くと良い、という結論が導き出せます。

このあたりの知見(口を開けすぎることのデメリット)は、音声学というよりも、声楽の勉強や経験から得られたことです。私は、英語の歌をきちんと歌えない人を多くみてきていますので(ちなみに、歌唱の場合はここで語っていることよりもさらに多くのことを考慮しなければなりません)。

なぜアゴをゆるめる必要があるのか

英語の母音のフォルマント分布を見ると、F1 の取る範囲は日本語よりも広いです。従って「英語の発音においては声道の可動域を広げる必要がある」というのは、音声学的に正しいです。また日本語の母音「ア」におけるF1のとりうる範囲は他の母音と比較して広い(人によって出し方が異なる)ということがわかっています。言い換えるならば、深い「ア」を発声している人もいれば、浅い「ア」を発声している人もいるということです。もしも浅いアを発声している人の場合、アゴを緩めることの必要性はより増すことになります。

声の出し方は人によって異なる

音声学的には、どこでF1をコントロールしようが関係ありません。人によって発音戦略が違うと言い換えても良いでしょう。音声学が明らかにするのは「F1に対する影響はアゴの開きが最も大きい」というところまでです。たとえば、アゴを開かない代わりに喉頭の位置でフォルマントをコントロールしたとしても、それはそれで、そういう戦略を取っている人もいる、というだけのことです。声の出し方には唯一の正解があるわけではなくて、いろいろな方法があるのです。

このことを証明する、ちょっと面白い実験をしてみましょう。指を一本前歯でくわえてみて、その状態で、つまりアゴの開きを変えずに「アイウエオ」と発音してみてください。それなりに正しく聞こえるはずです。これは、本来アゴでコントロールするF1を、脳が自動的に何かで補ったことを示しています。つまり口蓋帆や喉頭などが補償的に動き、必要な声道の形を達成したということです(もちろん、このような部分の筋肉は能動的にコントロールすることは難しいですから、発音の勉強をするときに「喉の奥を広げろ」というような曖昧な方法が適していないことは明らかです)。ちなみにこのとき「アイウエオ」であれば比較的カンタンに発音できますが、英語だとこうはいきません。かなり曖昧な声になってしまいます。このことも、英語にはより多彩なF1が必要ということの証左になります。

私は、音声学および声楽の知識から「こうすると悪影響が最も少なく、楽なはずである(そして実際、私も楽である)」という方法を提唱しています。もちろん、このような戦略を取らないことは自由です。人の身体はそれぞれ異なります。(体型や方言などの影響で)日本語の時点ですでに十分に深い母音を達成している人もいることでしょう。喉頭を下げることによってアゴの開きを変えずに舌の位置を下げている人もいるかもしれません。その場合、影響を受けてしまうF2を何らかの方法で補償していることでしょう。声の戦略は実に多様です。自分に合うと思ったときに、私の方法を使ってください。

究極的なことを言ってしまいますが、学術的な正しさというのは、このようなメソッドを提唱する側はきちんと検証すべきだと思いますが、そのメソッドを利用する側は、あまり気にしなくて良いのではないかと思います。なぜなら、学術的に正しかろうが、自分にとって発音が改善しなければ何の意味もありませんし、逆にエビデンスがない方法でも、なんとなくイメージによってたまたま身体がそれなりに正しく動き、それっぽい発音ができるならば、そちらの方が役に立つからです。ちなみに自分の発している声が正しいかどうか分からないという場合は、まず録音で確認するという習慣を先につけるべきです。

いずれにしても、記事の中でも言及した通り、母音というのは「差」が大事です。人によって声の出し方は異なりますので、異なる人同士が発する声の間では、同じ母音でもフォルマント構成が同じとは限りません。つまり母音に「唯一の正解」というものはそもそもありません。「正解の範囲」だけがあり、しかもそれはかなり広いものです。しかし、自分の中では異なる母音同士をクリアに区別して発音できなければなりません。その母音同士の差が一体どこで作られるものなのかについては、正しい知識を持っていたほうが学習しやすいと私は思っています。

さらに言うと、こういった「意識」はいずれ潜在意識下に消えていくものです。たとえば、アゴを意識しながらずっと話すことは不可能です。学習段階で、その音に必要な響きを脳に刻みこんだら、実際に話すときは「その響きを達成するために身体が勝手に動く」という状態になるのが普通です。とはいえ、音声学的に正当な方法で学習することは、この学習プロセスをより楽に早くしてくれると思います。

まとめますと、私が提唱する「アゴ発音」は、解剖学、音声学、声学の知識、そして自らの経験から得られた知見によって成り立っています。ただし、この戦略を採用するかどうかは、学問的な裏付けがあるかどうかよりも、ご自身に実際に効果があるかどうかで判断することをおすすめします。(07/13/2016)

Q.咽頭が上がると咽頭腔が狭くなり所謂チェストボイスと呼ばれる成分が減少する。テノールが高音域を発声する際にこのようになりやすく、コーラスの場合、低声パートと声がブレンドしにくくなると私は考えているのですが、この考え方は正しいのでしょうか? アゴを落とす事による声道の拡がり具合と咽頭を落とす事による声道の拡がり具合には差があり、豊かでブレンドし易い声を実現するためには両方必要だと思ったのですが…。

A. 実に奥が深い、すばらしい質問をありがとうございます。英語発音というよりも歌唱に関する質問ですね。いくつかの質問に分かれているので、個別に回答します。咽頭(pharynx)ではなく喉頭(larynx)のことを言っていると思われる部分はそう読み替えました。また、問題を単純化するために男声合唱であることを前提とします。

「喉頭が上がると咽頭腔が狭くなり所謂チェストボイスと呼ばれる成分が減少する」かどうか

発声談義は、しばしば言葉の定義から始めなければなりません。この質問においても同様です。チェストボイスとは何かを定義しなければなりません。

声区については専門家の間でも複数の意見がありますが、最低でも「実声」と「裏声」の2つが男声において存在するというのは、すべての立場に共通している意見のようです。

チェストボイスという用語は、「実声」の意味で使われることが多いです。チェストボイスという用語に一般的に対応するのは「ファルセット(裏声)」または「ヘッドボイス」です。ヘッドボイスとは、POPSの歌唱テクニックで使われる言葉で、簡単に言うと声門の閉鎖が強い鋭いファルセットのことです。しかしこの質問者様は、チェストボイスというのは「実声」の意味では使っていないようです。

喉頭が下がると、声道長が長くなり、低い倍音成分が多くなり、結果として深い音色になります。もしチェストボイスというのを「実声」ではなく「低い倍音成分が多い声」と定義して良いのであれば、質問者様の理解は正しいです。つまり「喉頭が上がると低い倍音成分が減り」ます。低い倍音成分が減るので、軽く明るい声質になります。

テノールが高音域を発声するときに喉頭が上がると、低音パートと声がブレンドしにくくなるかどうか

音高が上がるにつれ喉頭が上がることは、トレーニングされていない一般人にとってはごく普通の現象ですが、歌手にとっては全く望ましくありません。喉頭が上がることは、しばしば声帯のゆるみや舌の緊張を伴い、声帯の適切な伸展を妨げるために声帯筋の緊張を招き、音色が安定しなくなります。音色が安定しませんので、もちろん声はブレンドしにくくなります。

しかしもし、呼吸のコントロールが適切で、舌や喉頭周辺の筋肉がリラックスしており、発声状態に問題がないとしたら、高い喉頭の位置に問題があるのかどうかという議論は別に存在します。つまり、音の高さにつられて上がってしまうのではなく、比較的高い位置で安定している喉頭には問題があるのかどうか、ということです。これは、コーラスグループが目指す音楽の質や響きによって異なると思います。

クラシック歌唱では、POPSの歌唱と比べて、一般に喉頭の位置は低いことが多いようです。クラシックでは、キアロスクゥーロ、すなわち「明るく深い」声が理想とされるためです(深い声のために低い倍音成分が必要になります)。POPSにおいては低い喉頭の位置はそこまで要求されません。最近の、特にアメリカのクラシック合唱団は、POPSに比較的近い、自然に話す感じの声質を重視するところが多いように思います。英語の発音の関係かもしれません。一方で日本の合唱団は比較的低い喉頭の位置を好む傾向にあると思います。いずれにしても、目指す響きや声質によって、このあたりの事情は異なってきます。ですから、理想的な喉頭の位置は目指す音色で決まるということになります。

喉頭を落とす事による声道の拡がり具合が、ブレンドし易い声の実現に必要かどうか

喉頭を意識して下げる(落とす)ことは、とても難しい問題をはらんでいます。おそらく、質問者様はよく分かっている方だと思いますが、念のためこのあたりの注意点を書いておきます。喉頭はある程度低く安定した位置に保つべきですが、その意識的な操作には弊害が多い、と言い換えてもよいでしょう。以下に詳しく説明します。

第一に、普通に「喉頭を下げるように」と指示すると、多くの人は舌の根本に力を入れて喉頭を押し下げてしまいます(喉頭は舌につながっているので、これは直感的に当然のことです)。これは発声に非常によくありません。不幸なことに、この発声をすると、自分の体の中には力強く響いているように聞こえるので、自分では「良い声」を出しているように錯覚しがちです。舌の自由度がなくなり発音が不自然になり「一見オペラ歌手のような」声になります。しかしこれは、本当のオペラ歌手がやっている高度な操作とはかけ離れたものです。

第二に、喉頭を意識して操作すると、声帯筋の緊張が取りにくいです。声帯筋の緊張が取れないと、息の流れを阻害し、声は固く重くなり、レガートが歌えなくなり、ブレンドしやすい声とはむしろ離れていきます。喉はリラックスして自由でなければいけません。喉頭はつねにわずかに動いています。あまりにも上下させることはいけませんが、固めてこの動きを阻害することもまた良くありません。

考え方を変えてみましょう。喉頭というのは、上から下げるものではなく、下から引き止めるものです。「喉頭を下げる」のではなくて、「上がらないように下から引っ張る」という感覚の方が、多くの人により正しい形が伝わる言い方だと思います。胸郭を高く保ち、アゴをゆるめ、顔が上を向かずに(アゴを上に上げるのではなく下にゆるめて)いると、喉頭というのはある程度自然に低い位置で保ちやすくなるものです。このときアゴを引きすぎて「首に埋め」ないように注意しなければなりません。喉頭は、その位置からさらに押し下げてはいけません。

さて、喉頭の意識的な操作には弊害が多いことについて書いてきましたが、もし、喉頭をこれらの弊害なくコントロールできるとしたら、低い喉頭の位置の方が低音パートとブレンドしやすいと言えるのでしょうか。

ブレンドしやすい声とは何なのか

そもそも「ハモりやすい声」とは何なのでしょうか。人間の声における「ハモり」には、複数の現象が影響しています。

  1. 基本波の重なり合いが新たに作り出す高次倍音
  2. 元々の声に含まれる高次倍音の相互強化

この説明は非常に長くなるので(もはや手遅れなほどに長くなっているとも言えますが……)、詳細は省きます。この2点から導き出される要素は2つ。「柔らかく(基本波が強い)」そして「響く(高次倍音が豊かな)」声が、よくハモります。これはみなさんの経験からも納得しやすいところではないかと思います。

そして「ハモり」を達成するためには、当然ですがピッチが正確であることが大前提です。そのためには、ビブラートを少なくすることが必要です。ビブラートは、正確なハモりの大きなヒントになるうなりを消してしまい、イージーなピッチで合わせることの原因になってしまいます。ピッチが正確な(かつ、周波数が整数比の)音波は、お互いを増幅します。ピッチが少しでもずれると、音波はお互いを打ち消してしまいます。一方で、よく調和した声というのは文字通り1+1が3になったり4になったりするものです。

さらに、それぞれの母音は特有の周波数帯にピーク(フォルマント)を持っています。ですから、母音の出し方を統一したほうが、フォルマントの位置にある周波数が強化されるので、より豊かな響きになります。

さて「ハモりやすい声」の要素を振り返ってみましょう。

  • 柔らかい声であること
  • よく響いていること
  • ピッチが正確であること(ビブラートが少ないこと)
  • 母音の響き(フォルマント)が一致していること

バスの声質は、低いフォルマントで表されます。これは低音パートの歌手のほうが長い咽頭長をしばしば持つためです。たとえば、バリトン歌手がテノールっぽく歌いたいときは、喉頭の位置をやや高くします。

というわけで、高声部のパートは、コーラス全体のフォルマント周波数を一致させるために(そして低音パートよりおそらくは短い咽頭長を補うために)、喉頭の位置を低くすることが必要と言えるかもしれません。これは逆に、低声部パートは喉頭を下げすぎないほうが良いことを示唆しています。

ただし、フォルマントというのは喉頭の位置だけで決まるものではありません。第一フォルマントには顎関節のひらきが一番大きな影響を与えます。喉頭を下げるとフォルマント周波数は全体的に下がりますが、しかし低音パートがそこまで低いフォルマントで歌っているかどうかは、分かりません。あなたのコーラスの低音パートがもし軽い声質ならば、上のパートもそれに合わせた方が良いということになります。

ですから、フォルマントの調整については「全体で母音の音色を合わせる」という程度にしておいた方が良いと思います。フォルマントは、母音の特性であって、音高によって変わるものではありません。低声パートだからフォルマントが低いとは限らないのです。

したがって、ハモリやすさを考えるのであれば、高声・低声パートの両方が、中音域での響きを統一し、その響きを可能なかぎり変えずに、音を上げたり下げたりできるようにするべきです。中音域はさほどの努力がいらないので、リラックスした柔らかい声を作りやすいです。柔らかい声のある声とは、声帯筋の力を抜き、息を安定して流し、ベルヌーイ効果によって柔らかく閉じた声帯によって歌われる声のことです。柔らかい声は基本波成分が強く、よりピッチを合わせやすくなります。高声パートはピッチが上がっても喉頭が上がりすぎないように、低声パートはピッチが下がるときに必要以上に「良い声」を出そうと舌で喉頭を押し下げないように、それぞれ注意するべきです。

長くなってしまったので、質問に戻りましょう。「喉頭を落とす事による声道の拡がり具合が、ブレンドし易い声の実現に必要かどうか」ですが、必ずしも必要とは言えません。第一に、目指すべき響きの質はコーラスによって異なります。次に、フォルマントは喉頭以外でも調整できます。そして、喉頭の意識的な操作には常に注意が必要です。(07/06/2016)

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