英語SENSE(センセー)Q&Aコーナー

このコーナーについて

英語学習については様々な悩みがあると思います。このコーナーでは、皆様の英語に関するギモンに何でも回答していきます。

私自身もこの質疑を通して勉強させて頂きたいと思っています。つまり、現時点で私にとって確信が持てないことであれば、きちんと調べて回答をします。英語を話す日本人やネイティブスピーカーの友人の助言、Web上の情報源、書籍、論文、とまあそこまで行くかは分かりませんが、とりあえずの意気込みとしては、ちゃんとやります。

一方で、あくまで無料相談ですので、私は回答について責任は取れません(といっても、結果に対して責任が取れるアドバイザリーはこの世に存在しないと思いますが……)し、そこまで厳密に調べるかどうかは保証の限りではありません。私の気分で変わるかもしれません。あくまで1つの読み物として扱って頂ければ幸いです。

あまりにも漠然とした「調査依頼」は実質の回答が不可能になる可能性があります(たとえば「一番良い参考書について教えてください」など)。また、私が主観で「面白い」と思った質問順に回答していきますので、必ずしも回答が保証されているわけではありません。

そんなゆる~いコーナーです。どうぞお気軽にご質問ください。

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いままでに回答した質問

World を米国式に上手く発音できません。word とほぼ同じになってしまいます。girl や pearl も同様です。発音の仕方は理屈では分っているのですが。何かコツがあるのでしょうか?

これが難しいと感じていらっしゃるということは、おそらくアメリカ英語の話だと想像します。「wordと同じになってしまう」のであれば、L sound が無いということはご理解されていると思います。そして「理屈が分かっている」が正しいとすれば、Lに移行するのがなぜか難しい、あるいは発音しているつもりなのに聞こえない、という状態なのだと想像します。では対策です… (回答全文)

英語圏などでよく自分の子どもに対して「I'm proud of you」と言いますよね。単に褒めたりする意味なのかと思ってたら、生まれたての赤ん坊にも使ってる人を見ました。どういう意味なのでしょうか?

I'm proud of you という表現は、基本的には、あなたに私は少なからず関わっている、そしてあなたのおかげで自分はハッピーだ、ということです。赤の他人に対しては使いません。友人や同僚、家族に対して使います。相手の行動から来ることですが、その行動を直接賞賛しているというよりも… (回答全文)

英語をネイティブのように話せるよう読めるようになったら、自分の世界はどのくらい広がりますか?

これはですね…すばらしい質問ですね。「どのくらい」広がるのかというところが特にいいですね。できるだけ具体的に回答してみます。

よく言われていることですが、英語ができるようになるとインプットできる情報の量が10倍~100倍くらいになります。といっても「情報量が増える」はいまいちピンと来ないのではないでしょうか… (回答全文)

英語ペラペラになりたいです!どうすればいいですか?

長年いろいろな人に英語学習のアドバイスをしてきましたが「ペラペラ」を目指すのであればもう1つの答えだけでいいのではないかと思い始めました。その答えを今から書きます… (回答全文)

海外(英語圏)に住んだら、自然と英語が話せるようになりますか?

環境とモチベーション次第だと思います。

私の周りを見回してみる限りでは、人によってかなり異なる印象です。5~6年住んでもさっぱりという人もいますし、半年くらいでそこそこのレベルに行く人も… (回答全文)

英語人に聞いた方が確かなことが多いのに、どうして日本人に聞くのでしょうか?

「多くの人は英語でうまく質問を作れない」というのが一番大きな理由だと思いますが、それ以外に考えられるのは、「英語の質問に答えられる英語のネイティブスピーカーは少ない」ということではないでしょうか。

たとえば、外国人が日本語を学びたいときに見る日本語のQ&Aサイトを見てみてください。たくさんの日本人が… (回答全文)

shoe storeのshoeはなぜ単数形なんですか?

文法的に正確かは分かりませんが、私なりの解釈を述べます。「そういうもの」というだけではなくて納得のいく「解釈」「理由」を知りたがっていらっしゃると思いましたので。

これは複数か単数かの話ではなく「不可算」と考えるとすっきりすると思います。単数は a shoe です。数えられる概念の名詞が… (回答全文)

なぜ翻訳された文書は読みづらいのですか?母国語ではないからですか?

これは良い質問ですね。英→日翻訳という前提を置いた上で、私なりに回答させてください。

正確性を重視すると、翻訳文は必ず読みにくくなります。それは、それぞれの言語表現における慣習が微妙に異なるからです。元の文章に含まれている要素を網羅しようとすると、たとえば日本語ではふつう省略するような部分や強調することがない部分などを全部残す必要があり、いわゆる直訳に近い、日本語としては自然でない文章になります。これを… (回答全文)

複数の女性をguysと呼ぶのは間違っていますか?

間違いの定義によります。

Guys はグループに呼びかけるとき日常的に使われる言葉で、あまりに日常化しているので性差問わず使えます。男性が含まれない女性だけのグループでも使われます。ただし… (回答全文)

英語でwould have thought~というのは日本語訳ではどう表現すればいいでしょうか?

この形の意味は大きく二種類考えられます。他にもありますがそれほど重要ではないので省きます。

1.過去の事実に反する仮定 例:He would have thought like that. (実際には考えなかったが、条件を満たせば)彼はそんなふうに考えていただろう。… (回答全文)

英語圏の方々は短縮形をどのような場では使いますか? 或いは使いませんか? 発音、筆記、両方の観点から教えて頂きたいです。

これは非常に奥が深い、すばらしい質問です。これだけで1コマ授業できるほどですが、できるだけシンプルに回答してみます。

短縮は「日常系、簡略化系」です。会話ではほぼ常に短縮形が使われます。チャット、カジュアルなEメール(現代ではビジネスメールでも9割以上がカジュアルでしょう)、実用書などはカジュアルな文体もよく使われます。… (回答全文)

英語のことわざで、“Beauty is in the eye of the beholder”(美は見る人の目の中にある)というものがありますが、なぜeyesではなくeyeなのですか?

この eye は物理的な目という意味ではなく「まなざし」といったような概念だからです… (回答全文)

藤村高寛さんが英語でお話しされているところを観られる動画、もしくは英語で書かれた文章を拝見できるところはありますか? 英語を教えてみえる方のブログやサイトはたくさんありますが、その方が英語で発信している様子を見られるものがあまりないという印象をいつも受けるのがとても気になります。(それがわからずしてどうして申込みできるのだろう?と…他意はありません。素朴な疑問です…)(akoさん)

ありがとうございます。このコーナーを始めて本当に良かったです。このような本音の意見は貴重です。私も本音でお答えしようと思います。

内容を拝見する限りでは、記事の信憑性に疑問があるというよりも、このサイトで提供しているサービスのお申し込みを検討して頂いており、その後押しが欲しい、という感じなのですね。検討頂いてありがとうございます。

さて、短いバージョンの回答を先に。今すぐ見られるものがあるとしたら、Facebookの投稿くらいだと思います。在米中は基本的に英語で書いていました。帰国後はさすがに頻度が減ってしまいましたが、たまに書いています。FBのアカウントがあれば友人になっていなくても見られますので、もし興味があれば覗いてみてください。2013-2014あたりが英語多めです(スマホでは無理かもですが、デスクトップ版なら年を指定できます)。金魚詐欺の話とか、奥さんの髪の毛燃えたあたりの話がおすすめです。最近で比較的長めのだとこれとか。喋っているビデオはたぶん無いです。近いのは英語で歌っている動画くらいかな……。

さて、ここから先はおまけとして、私が英語で発信することにそれほど積極的ではない理由を少しだけ書きます。

まず第一に、何を書いたり喋ったりすれば良いのかわからないです。英語SENSEは日本人のための情報提供をするサイトです。私が情報を発信したい先は日本人であって英語話者ではありません。

私の本業は米国ギフトブランドのブランディングです。英語で発信する頻度が一番高いのはこの仕事関連ですが、もちろん内容は公開できません。

第二に、私は英語力を売りにしているのではなくて、教える力を売っています。

文法講座については、私は「問題点をまとめる能力、分かりやすく説明する能力」を売っています。日本人が誤解しやすい部分の英文法項目について「このような解釈の仕方をすれば分かりやすく理解できる」「英語話者はこのように思考している(だから、難しい文法項目を意識せずに使える)」というようなことを教えています。これは、単に英語ができるだけの人には教えられない内容です。

添削・ライティング講座の売りは「説明能力」「良い文章を書く力」「ノウハウ」「調査能力」です。文法講座は時間が限られていますので全てのポイントはカバーできませんが、添削の場合はとことんお付き合いできます。添削には「より良い表現を考える」プロセスが欠かせません。良い国語力とでも言いましょうか。私はこの点かなり深く勉強しています。ロジカルにライティングを構成する方法は、もちろん単に英語ができるだけでは教えられない内容です。調査能力というのはちょっと分かりにくいかもしれませんが、たとえば私は知らない英語表現にあたったとき、その分野をリサーチして正しい表現を確認したりしています(これは、通訳の人がやっていることと全く同じです)。

教える能力というのは、教える人の実力を超えて成長させることができます。もちろん、実力が全ての基礎になることは間違いありません。しかし「内容」以上に「教え方」が大事なのだと、私はそう信じています。

たとえばの話をします。日本語ネイティブでない教師が、日本語以外の母国語話者に「良い日本語の書き方」を教えられるかというと、私は教えられると思います。この点に同意いただけないと、もしかしたら理解は難しいかもしれません。

もちろん、これらを教えるにあたって必要最低限の英語力というものはあるでしょう。しかしそれは、試して頂ければすぐ分かるのではないかと思います。すべての講座では何らかのお試しができるようになっています。試してダメだな、と思ったらキャンセル頂ければ良いと思います。添削であればサンプルもお見せできます。

ちなみに私のスピーキング能力は、ライティング能力ほど高くはありません。準備したスピーチならともかく、リアルタイムでの会話で日本人らしさを匂わせないことができるかというと、そんなことはできません。つっかえてしまったり、文法を間違ってしまったりします。私は書き言葉の方が得意です。文法とライティングにフォーカスしているのはそのためです。

いろいろな英語話者と話す限りでは、ネイティブと遜色の無いレベルのスピーキング能力を大人になってから得るには、英語圏で最低15年程度は生活しないといけないように思います。しかしこのようなことはほとんどの人が理解していないことです。

たとえば、もし私が英語で話している動画をここに公開したら、質問者様はがっかりされるかもしれません。もちろん、やってみないと分かりません。人によっては、流暢そのものに聞こえるかもしれません。どちらにしても、そんなリスクを犯す必要はないなーと私は思っています。ここにこんなことを書いている時点で遅いかもしれませんけど。

私の英語力はネイティブレベルではありません。しかし、それなりの英語力と、それ以外の能力を組み合わせ、ここにしかない内容を提供しています。英語力を証明するために英語で発信するといった必要性は感じていませんが、別に隠す必要もないと思っています。

質問があるのですが、顎を下げるというのをやってみたのですが、なんというかちょっとアントニオ猪木?のようになってしまいます。これで良いのか、それとも間違った下げ方なのでしょうか?(タカシさん)

A. ご質問ありがとうございます。実際に試して頂いて、かつ質問までして頂くというのは非常に素晴らしい行動力です。行動している時点ですでに勝っているようなものです。きっとすぐに上達されることと思います。

さて、アゴに関しては、「ゆるめる」とか「下げる」といった言い方をしてみましたが、もしそれが理解しづらい場合は「口先を開けすぎないようにしながら、奥歯と奥歯の空間を少し空ける」というのを試してみてください。

日本語の発音では、咬筋が緊張していることが多いです。咬筋は、両頬の位置にあり、下顎骨と頭蓋骨につながっています。奥歯と奥歯が合わさるあたりを指で触って確かめてみてください。この「咬筋の緊張を解く」のが大事です。筋肉の緊張をゆるめて、アゴをもっと柔軟に使えるようにするのです。咬筋を緩めるとアゴは重力に従って勝手に落ちます。

アゴの蝶番部分にひっかかりを感じて、開けたり閉じたりするのに違和感を感じるようであれば、それはおそらく下げすぎです。アゴの開きの違いというのは実際のところ、気づいてしまいさえすれば、非常にわずかなものです(違いを意識するために最初は大げさにやってみるのも良いかもしれませんが)。

「アントニオ猪木のような」というのが実際にはどのような状態を表しているのかは、文面からは判断できません。しかし、常に意識しておいて頂きたいのは、最終的に目指すのは自然でリラックスした状態なのだ、ということです。

英語のポジションが日本語と違うのは事実ですから、アゴをゆるめたポジションは確かに最初のうち「自然でない」感じがすると思います。しかし「自然でない」と「明らかに不自然である」の間には大きな違いがあります。同じ人類、体の作りはそう違うものではありません。「明らかに不自然」と感じたならば、それはまず不正解と考えて良いと思います。

もしかしたらタカシさんが誤解されているかもしれないことは「アゴの下げかたについて唯一の正解がある」ということです。

アゴをゆるめると良いというのは、英語の母音を発音し分ける方法が分からない人に対して(あるいは、発音の仕組みについて誤解されている人たちへの)の治療法の1つです。そして、その効果というのは、おそらく「一瞬で分かる」タイプのものです。「あ、なるほど! これで確かに区別しやすくなるな」となれば、その時点でもうゴールは達成できています(英語の発音練習の第一のゴールは、複数の母音を自分の中でクリアに区別できるようになることです)。

アゴをゆるめれば英語の発音が勝手に正しくなるわけではありません(実際に聞いてみないと判断できません)。必要な対処は人それぞれです。タカシさんがアゴに課題を抱えているかどうかは、分かりません。もしかしたらアゴよりも舌の位置や唇の使い方に課題があるかもしれません。

アゴ発音というのは、ヒントの1つとして、あまり大げさに考えすぎないようにすることをおすすめいたします。あくまで、ご自身の目的を達成できているかで判断してください。実際のネイティブスピーカーの声を聞いたりして、感覚とアウトプットが合っているかどうかを平行して確認してください。耳で聞いた感覚、自分で発声したときの感覚、そしてその時に自分の体がどのように動いたかの感覚、この3つをすべて一致させるのが最終的なゴールになります。

まとめます。アゴを開く方法というのは、壁にぶつかったときの対処法の1つです。この壁には相当な割合の日本人がぶつかっていますが、全員とは限りません。「どの程度開けば良いのか」については、ご自身の理性と感覚を信じて、効果がある度合いを探ってみてください。しかし、おそらく思っているよりはわずかなものでしょう。

顎を下げるというのは、解剖学的に存在する事実ですか、それとも主観的な感覚でしょうか。(スカイさん)

A. これまた、最高の質問をどうもありがとうございます。最高というのは、その点について書く機会をいただけたという意味です。

ご質問の内容を言い換えると「英語の発音はアゴを下げると良いというのは、学術的に何か裏付けがあるのでしょうか」ということですね。もちろん、あります。

フォルマントについて

まず「母音とは何か」で説明した内容をもう少し掘り下げてみます。母音は1.アゴの開き 2.舌の位置でほとんど決まる、と書きました。このように書いた理由は「フォルマント」という事象に基づいています。

声帯で発された音が、声道(声帯から口先までの空間のこと)を通り抜ける際に共鳴した結果が、通常わたしたちが耳で知覚する人の声です。声帯で発された音は、音声学では音源(Voice Source)といいます。この音源は、母音の特徴を持っていません。「ブー」というブザーのような音です。音源は、いろいろな高さの音(倍音)が混ざり合った音ですが、高い倍音ほど音量は小さくなりますので、通常は基音(一番低い音)の高さのみが知覚されます。音源は、声道を通り抜けるときに、声道の形に依存して共鳴します。どういうことかというと、特定の形の声道は、音源に含まれている倍音のうち、特定の周波数の音だけを強化します。言ってみれば、フィルターのように働くと言って良いでしょう。声道のフィルターを通った後の音は、そのときの声道の形状によって、特有の周波数にピークができます(特定の周波数の音量が大きくなります)。このピークのことをフォルマントと言います。

フォルマントは、周波数から低い順に、F1,F2,F3,F4,F5...と複数あります(周波数のピークは複数できます)が、母音の特徴はほぼF1とF2で決まることが分かっています。このことは簡単に実験できます。声を録音して、そこからF1,F2の周波数を取り除いた音がどう聞こえるかを聞けばよいわけです。私もソフトウェアを用いて実験してみましたが、F1とF2付近の音を消すと見事に母音の特性が消えてしまい、何の母音を喋っているか全くわからなくなります。

F1はアゴの開きに強く依存することが分かっており、F2は舌がどのように声道を狭めるかに依存することが分かっています。母音は「1.アゴの開き 2.舌の位置でほとんど決まる」と書いた理由は、このような音声学の知識に基づいています。

口ではなくアゴである理由

アゴを開けると、舌の位置が下がり、口腔下部の容積が減り、口腔上部の容積が増えます。このことは解剖学的な事実です。口の開きは、当然ですがアゴの開きにほぼ依存します。口を開くには、アゴを開かなければなりません。

ただし逆は真ではありません。アゴの開きをコントロールする筋肉が緊張していると、口先は開いてもアゴは十分に開きません。これは日本人に特有の現象です。このことを調査した学術論文は、私の知る限りではありません。ですから「日本人はアゴを緊張させがちである」というのは、私がいろいろな人の発音を診させて頂く中で発見したことです。ただしこの点については、学術的に正しいかどうかはさほど問題ではないでしょう。なぜなら、あなたがアゴを緊張させているかどうかは、アゴを緩める発声を試して改善するかどうかですぐ分かることだからです。口先を開かずにアゴを開くことは可能です。口先(唇)を閉じたままアゴをゆるめることができるということは、やってみればすぐ確認できると思います。

アゴの緊張が取れている前提であれば、口を大きく開けることは結果的にアゴを開いていることになり、口の中で起きている現象は同じと言えます。しかし、口先を大きく開けると、子音の発声に余計なエネルギーを使うことになります。たとえば ma'am(ご婦人・お嬢さん)と発音をするときに「この母音は口を大きく開ける」と覚えていると、口を開けたり閉じたりするのが大変ですし、不要な経過音が聞こえてしまう原因にもなります。アゴ発音であれば、このような問題はありません。余計なエネルギーを使わなくてすみ、特に速いスピードで話すときが楽になります(速く話す時は、より素早く口を開け閉めしなければなりませんから)。

英語の多彩な母音に対応するためには、口内の可動域を増やす必要があり、かつ英語の強い子音に対応するためには、最小限の動作で子音のポジションを得なければなりません。このことを合わせて考えると、口先を開きすぎずにアゴを開くと良い、という結論が導き出せます。

このあたりの知見(口を開けすぎることのデメリット)は、音声学というよりも、声楽の勉強や経験から得られたことです。私は、英語の歌をきちんと歌えない人を多くみてきていますので(ちなみに、歌唱の場合はここで語っていることよりもさらに多くのことを考慮しなければなりません)。

なぜアゴをゆるめる必要があるのか

英語の母音のフォルマント分布を見ると、F1 の取る範囲は日本語よりも広いです。従って「英語の発音においては声道の可動域を広げる必要がある」というのは、音声学的に正しいです。また日本語の母音「ア」におけるF1のとりうる範囲は他の母音と比較して広い(人によって出し方が異なる)ということがわかっています。言い換えるならば、深い「ア」を発声している人もいれば、浅い「ア」を発声している人もいるということです。もしも浅いアを発声している人の場合、アゴを緩めることの必要性はより増すことになります。

声の出し方は人によって異なる

音声学的には、どこでF1をコントロールしようが関係ありません。人によって発音戦略が違うと言い換えても良いでしょう。音声学が明らかにするのは「F1に対する影響はアゴの開きが最も大きい」というところまでです。たとえば、アゴを開かない代わりに喉頭の位置でフォルマントをコントロールしたとしても、それはそれで、そういう戦略を取っている人もいる、というだけのことです。声の出し方には唯一の正解があるわけではなくて、いろいろな方法があるのです。

このことを証明する、ちょっと面白い実験をしてみましょう。指を一本前歯でくわえてみて、その状態で、つまりアゴの開きを変えずに「アイウエオ」と発音してみてください。それなりに正しく聞こえるはずです。これは、本来アゴでコントロールするF1を、脳が自動的に何かで補ったことを示しています。つまり口蓋帆や喉頭などが補償的に動き、必要な声道の形を達成したということです(もちろん、このような部分の筋肉は能動的にコントロールすることは難しいですから、発音の勉強をするときに「喉の奥を広げろ」というような曖昧な方法が適していないことは明らかです)。ちなみにこのとき「アイウエオ」であれば比較的カンタンに発音できますが、英語だとこうはいきません。かなり曖昧な声になってしまいます。このことも、英語にはより多彩なF1が必要ということの証左になります。

私は、音声学および声楽の知識から「こうすると悪影響が最も少なく、楽なはずである(そして実際、私も楽である)」という方法を提唱しています。もちろん、このような戦略を取らないことは自由です。人の身体はそれぞれ異なります。(体型や方言などの影響で)日本語の時点ですでに十分に深い母音を達成している人もいることでしょう。喉頭を下げることによってアゴの開きを変えずに舌の位置を下げている人もいるかもしれません。その場合、影響を受けてしまうF2を何らかの方法で補償していることでしょう。声の戦略は実に多様です。自分に合うと思ったときに、私の方法を使ってください。

究極的なことを言ってしまいますが、学術的な正しさというのは、このようなメソッドを提唱する側はきちんと検証すべきだと思いますが、そのメソッドを利用する側は、あまり気にしなくて良いのではないかと思います。なぜなら、学術的に正しかろうが、自分にとって発音が改善しなければ何の意味もありませんし、逆にエビデンスがない方法でも、なんとなくイメージによってたまたま身体がそれなりに正しく動き、それっぽい発音ができるならば、そちらの方が役に立つからです。ちなみに自分の発している声が正しいかどうか分からないという場合は、まず録音で確認するという習慣を先につけるべきです。

いずれにしても、記事の中でも言及した通り、母音というのは「差」が大事です。人によって声の出し方は異なりますので、異なる人同士が発する声の間では、同じ母音でもフォルマント構成が同じとは限りません。つまり母音に「唯一の正解」というものはそもそもありません。「正解の範囲」だけがあり、しかもそれはかなり広いものです。しかし、自分の中では異なる母音同士をクリアに区別して発音できなければなりません。その母音同士の差が一体どこで作られるものなのかについては、正しい知識を持っていたほうが学習しやすいと私は思っています。

さらに言うと、こういった「意識」はいずれ潜在意識下に消えていくものです。たとえば、アゴを意識しながらずっと話すことは不可能です。学習段階で、その音に必要な響きを脳に刻みこんだら、実際に話すときは「その響きを達成するために身体が勝手に動く」という状態になるのが普通です。とはいえ、音声学的に正当な方法で学習することは、この学習プロセスをより楽に早くしてくれると思います。

まとめますと、私が提唱する「アゴ発音」は、解剖学、音声学、声学の知識、そして自らの経験から得られた知見によって成り立っています。ただし、この戦略を採用するかどうかは、学問的な裏付けがあるかどうかよりも、ご自身に実際に効果があるかどうかで判断することをおすすめします。

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