心が楽になる英単語の覚え方

【 このページに書いてあること】

  • 英単語を覚えることが苦痛でなく楽になる方法
  • 効率のよい記憶の仕組み
  • ボキャビル(ボキャブラリー・ビルディング)のやり方

英語の語彙を増やすことについては、私は、それなりに試行錯誤しましたが、劇的に楽になる画期的な手法を発見したということでもなく、ごく普通の学習曲線を辿ったと思います。結果として十分な(月に数冊の洋書を読破することが苦でない程度の)語彙力を維持できています。一方で、語彙力の増強に苦労しているという相談は非常によく受けます。そこで、この記事を書くにあたって、英単語の覚え方について様々な角度からリサーチしてみました。結果として、私の採っていた手法はそれなりに理のかなったものでした。あるいは、私が失敗したときは、失敗するべくして失敗したのだな、と分かりました。というわけで、私の学んだことを、体験談を交えて解説してみたいと思います。

このページの内容はかなり長いです。お時間のあるときにお読みください。

英単語の覚え方のポイント

単語学習というのは究極的には繰り返しです。しかし、その繰り返しが大変だから、多くの人が挫折してしまいます。

単語学習の失敗といったら、概ね以下のどれかに当てはまるのではないでしょうか。

  • 英単語の勉強をするかと思いたち、単語帳を使って勉強してみてはいるが、いつまでたっても覚えられないので3日坊主だ。
  • 辞書を引くと大量の意味が出てくる。どこまで覚えれば良いのかわからない。
  • 知っている単語が多いうちはなんとかなったが、難しくなってきたら面白くなくて、やめてしまった。
  • 1つ1つ例文を作ったりしているうちに、作業が大変すぎて止めてしまった

そしてみなさん、こんなふうに考えているのではないでしょうか。

  • 繰り返しの数を、少しでも減らせる方法はないか
  • もっと簡単に続けるようにできないだろうか

今回の記事は、これらの疑問に応える形で書かれています。

英語学習には、実際の手法もさることながら「考え方」が大事です。実際のhow toは、人によって向き不向きがありますが、役に立つ考え方は同じです。原則を知れば、自分で応用できます(これは、本サイトの記事すべてに通底する考え方です)。

というわけで、まず原則からはじめてみましょう。

英単語の覚え方 理論編

英単語学習は、楽ではない

英単語を覚えることは多くの人にとって苦痛なものです。というか、英単語学習は、はっきりいって異常なストレスを感じます(私だけだとは思いたくありません)。

英単語は、工夫しないとそもそも大変な分野です
英単語は、工夫しないとそもそも大変な分野です

なぜか。考えうる理由を挙げてみましょう。

  1. 単語を覚える作業は、無味乾燥で退屈です
  2. 単語は、発音や文法と違って「わかったつもり」という逃げ道がありません
  3. 自分の知らないことを次々と繰り返さなければならないので、脳に大きな負荷がかかります
  4. しかも必要な量が膨大です

このように、英単語学習はそもそも大変なものです。なので、その大変さを認識した上で勉強の計画を立てた方が良い と思います。

理想的な英単語の覚えかた

そもそも、大人の学習者にとって、英単語を覚える理想的な状況とはどのようなものでしょうか。

それは、一度でも触れたことのある英単語に、印象的な出来事の中で「再度出会う」というものです。

また会えたね!
また会えたね!

自発的に英語を勉強したことのある方であればピンと来る話でしょう。一度でも学習を試みたことのある単語が、本の中や実際の会話の中で出てくると 「あっ、この単語知ってる」「あっ、この単語こうやって使うんだ!」と、一気に印象が刻まれます。このような出会い方をした単語はなかなか忘れません。

これを逆説的に言い換えると、単語の学習だけして、その単語を使えるレベルで定着させるのは難しいです。

単語を脳にインストールするには、実際の現場でその単語に出会わなければなりません。単語学習で ”覚えた” 段階の単語は、所詮は机上の空論みたいなものです。実際にどのような状況で使われるのかを知らなければなりません。実際の現場で使われている単語を見聞きして、初めてその単語が本当の意味で定着します。

上記については納得できるという人でも、実際には以下のようなことを繰り返していないでしょうか。

  • 辞書を引くと大量の意味が出てくる。どこまで覚えれば良いのかさっぱりわからない。
  • 1つ1つ例文を作ったりしているうちに、作業が大変すぎて止めてしまった

単語学習に間違った期待をしていると、裏切られます。単語学習とは「単語と仲良くなるプロセス」にすぎません。英単語学習を通して「英単語をモノにしてやる」というようには考えない方が良いと思います。英単語の本当の意味を覚えるのはリーディングの役割、その単語を本当に使いこなせるようにするのはライティングの役割です。

単語学習は、できるだけ簡単にできるように考えた方が良いです。なぜなら単語学習は大変なのですし、そもそも単語学習とはショートカットの一手段にすぎないからです。

いつから単語学習を始めるべきか

単語学習は、必要性を実感するまではやらなくて構いません。

なぜか。

単語学習は究極的には繰り返し、反復です。しかし、初学者のうちは、たくさんの英文に触れていれば、自動的に語彙が増えていきます。それは、基礎単語というのは登場頻度が高いので、意識しなくても勝手に反復されるからです。したがって、文法の学習や英作文、リーディング、音読などのプロセスを通して「自然に覚える」という方法が有効です。

えっ? いいの?
そんな顔しなくても、本当ですよ。

もしかしたら「ごく簡単な英文を見るだけで頭が痛い(知らない単語ばかり)」という状態で、単語学習の必要性を感じているかもしれません。しかしこの状態では、おそらく単語学習をしても挫折の確率が高いと思います。学習を始めたばかりの段階で、単語リストや単語本などを購入してみたものの、大変なのですぐ挫折してしまうというのは、よくある学習の失敗パターンです。いわゆる単語学習をこなすには、それなりの基礎体力が必要です。中学英語レベルの簡単な参考書、もしくは自分が興味のある分野の短文から始めて「分からない単語について辞書を引く」ということを覚える(クセにする)ところからスタートした方が良いと思います。基礎単語は、必ず何度も何度も出てきますから、英語学習を続けている限り、それほど苦労せずに覚えられます。覚えられない場合だけ、単語帳などを活用すれば良いと思います(このことは後述します)。

体験談

振り返ってみると、私は、単語を意識的に「詰め込んだ」ことは1度しかありません。

私はしばらく単語学習の必要性を感じませんでした。それは、学校教育で最低限は入っていたからかもしれません。学生時代の私の英語の成績は、10段階で4くらいで、入試の長文はほぼランダム選択というような悲しいものでしたが、それでも実際に仕事で英語を使いはじめてみると「あっ、これは見たことがあるな」という単語はたくさんあり、辞書さえ手元にあれば、仕事上ではさほど苦労しませんでした。よく使う単語はそのうち勝手に覚えてしまい、そのうち辞書を使うことも減ってきました(日常業務で必要な語彙数は少ないです)。

しかし、書籍やニュースを読もうとすると、どうしてもキーワードが理解できないパターンが多く、疲れてしまって、続きませんでした。また、会話においても同様でした。会話で使われる語彙レベルは、自分でコントロールができません。仕事上のミーティングにはさほど問題がなくなった段階になっても、日常の雑談にはなかなか対応できませんでした。

私はこのようにして、初めて語彙力増強の必要性を感じ、一気に数千語を”覚え”ました。結果として、たいていの英文では困らなくなりましたし、ノンジャンルの雑談にも対応可能になりました。

逆に言うと、仕事でまあまあ使えるレベルの英語力で良いのであれば、英単語を明示的に「詰め込む」必要はほとんどないのではないか、と思います。

何のために英単語学習をするのか

あまりにも単語がわからないと、文章を読む気すら失せてしまいます。言い換えると、少なくとも文脈が予測できる程度には単語を覚えなければなりません。つまり単語学習をすることで「英文を見ただけで頭が痛くなる」割合が減っていき、そして英文を読むことが続けられるようになってきます。これこそが、英単語学習の目的です。

そして、なんとなくでもいいので知っている単語というのは、「理想的な単語の覚えかた」で解説したように、実際に「出会った」ときの学習効果が倍増します。

それどころか、単語に出会う機会そのものが増えます。アンカー効果というのをご存知でしょうか。たとえば、あなたがあるときデジカメを買おうと思い立ったとしましょう。そうすると、突然、街中がデジカメの広告に溢れていることに気づくと思います。これらの広告は今までも存在していたのです。ただ、意識の外にあっただけなのです。英単語の学習でも、全く同じことが起きます。一度でもある単語を学習したら、その単語が目に(耳に)入るようになります。今までは無視していたのです。実は人間は会話のかなりの部分を聞き流しています。読書でもそうです。

さて、単語学習は大変なのだということを知り、ハードルを下げ、かつやらなくて良い場合を知り、学習の目的について整理してきました。そこから導き出せる結論ーーつまり単語と向き合わなければならない瞬間とはどういうものでしょうか。

英単語の学習に取り組むのは「一気にレベルを上げたいとき」 です。多くの経験値を得るために、ちょっと背伸びして強いボスと戦うみたいなものです。うまくいけばしめたものです。

記憶の仕組みについて知っておく

経験が足りない状態で強いボスと戦うには、まず装備を整えることからです。自分たちの武器となる「脳の仕組み」を知りましょう。英単語を覚えるためには、記憶のメカニズムについて多少知っておいたほうが良いと思います。

つながりが大事である

脳についての様々な研究成果が「複合的に理解しておいたほうが記憶はより定着する」ということを示唆しています。

日本語で理解するだけでなく、音も関連付ける。文法知識も関連付ける。脳内イメージも関連付ける。そういう感じです。詳しくは実践編で解説します。

つながりで覚える
つながりで覚える

これを別の角度から考えると、面白い想定ができます。それは、手がかりが少ないうちは覚えにくい、ということです。つまり、英語の基礎力が足りないうちの単語学習は、そもそも必要性が薄いだけではなく、より苦労すると言えます。以下の体験談もお読みください。

体験談

先ほど、単語の詰め込み(ボキャビル)は一回しかやったことがないと言いましたが、といっても私が単語学習を一度も試みなかったわけではありません。記憶の端々に、例文を書いたりした思い出が残っています。しかしどの試みも長続きした覚えがありません。おそらく、つどつど「挫折」していたのではないかと思います。

逆に、詰め込みが成功したときの理由は2つ思いつきます。

1つは、周辺知識が豊富だったことです。

単語を覚えるとき、それが動詞なのか、名詞なのか、副詞なのか、形容詞なのかで、頭に浮かべるイメージが全く異なります。私が単語学習を試みたときは、必ずしも明示的に例文を作らなくても、単語を見ただけでかなり自由に例文を頭の中で構成できる状態でした。名詞ならこうしよう、形容詞ならこうしよう、と、単語を見た瞬間に様々な角度から文章を組み立てられました。つまり「つながり」が勝手に生まれる状態だったということです。これは単語を覚える上で相当プラスに働いたという実感があります。

2つ目は、課題意識です。必要性を強く感じて積極的に学習したことが、継続に寄与したと思います。

つまり私は「英語が得意だし、好きだし、今まさに詰め込みの必要性を強く感じている」という状態で、初めてボキャビルをこなすことができました。

記憶力は、気の持ちようだけで上がる

なぜ、子供はいともたやすくモノを覚えられるのか。

その理由の1つとして考えられているのが、ワクワク感です。子供のほうが、世の中をより新鮮に見ています。新鮮に、面白みをもって物事にあたると、より記憶力は増大します。情動を司る脳の部位「扁桃体」が活動すると、記憶に大きくプラスの影響が生じることがわかっています。

つまり「こんなの、結局は繰り返しだよ」と中途半端に悟ってしまうよりも、ワクワクしながら試行錯誤したほうが良いと言えます。

同じように、受け身で学習するときよりも、自分から能動的にアクションを起こそうとすると、脳は強く反応します。つまり意識的に「覚えよう」とするだけでも全く違います。

さらに記憶力が悪いと思いこむだけで、記憶力は悪化します。ある研究では、高齢者と若者が同程度の成績を示す記憶テストにおいて「高齢者のほうが一般的に成績は悪くなる」と単に伝えられただけで、高齢者の成績が実際に悪くなるという驚くべき結果が出ました。「高齢者でも若者と同じ程度の記憶力を有している」と信じている人の方が実際の記憶力も高いということです。

似たような話で、受けるストレスの量が同じでも「ストレスは体に悪い」と認識している人と「ストレスは自然な反応である」と認識している人では、体への影響が違うという研究成果もあります。もちろん、前者の方が不健康な影響を受けます。

わたしたちは、かくも思い込みに支配されやすい生き物なのです。

しかし同時に、自分の脳のクセを知って「騙す」事ができる程度に、客観視の能力も優れています。これは素晴らしいことではないでしょうか。こんなことができる動物は人間だけです。

脳のクセを知って、使いこなす
脳のクセを知って、使いこなす

出力したほうが覚える

脳の回路は出力するときにより強化されます。

インプットされただけでは、その重要かどうかは脳には判断できません。もちろん、何度もインプットを繰り返せば、その情報は大事なのだと分かります。

しかしより効果的なのは、アウトプットです。実際に自分で使う知識は、重要なものに決まっていますから、インプットよりもはるかに記憶に定着しやすいです。

従って、入力だけするのではなく出力の機会を増やしたほうが良いです。

サッカーの理論を学んだからといってサッカー選手にはなれません。YouTubeで歌のレッスンを見たからといって、歌えるようにはなりません。実際に練習しなければなりません。

このとき「思い出そうとする」のがとても大事です。「あれ、何だっけな~」と思い出そうとすることは、記憶の定着にとても良いことです。

つまり、アウトプットといっても、単にインプットの際に口に出してみるとか、書いてみるとか、そういうことではありません。それは単に形を変えたインプットをしているだけです(もちろん、これらの試みはインプットの質を上げることには多少役に立ちます)。それよりも、インプットしたものを「手がかりなしに」取り出そうとする ことが大事です。

思い出そうとする
conjecture ...... 推測!

やればやるだけ効果がある

単語学習は、やればやるだけ効果があります。

覚えている単語を繰り返すだけでも効果があります。「覚えた」つもりの単語でも、実際はまだ深層意識に刻み込まれてはいないかもしれません。半年したら忘れているかもしれません。何度か繰り返すことで、忘れるまでの時間が伸びていきます。そして「あ、これ覚えてる」という喜びは、学習を継続するために必要不可欠です。

私はいまでも(数ヶ月に一回くらい)過去の単語帳を復習することがあります。一度覚えたものなので、それほど時間はかかりません。メンテナンスみたいな感覚でしょうか。

また「覚えられなかった」単語ですら、無駄ではありません。たとえば、単語のテストに不正解でも、正解を聞けば「ああ、そうだった」と感じる単語がいくつかあるはずです。こういう単語は「脳内の回路ができかけ」です。ですから学習の効果は出ていると言えます。

英単語学習は大変なのですから、無理をしないスケジュールにしましょう。しかし、取り組むときは、やればやるだけ成果が出るのですから、目先の結果を気にせず、どんどんやりましょう。挫折したとしても無駄ではありません。「計画は悲観的に、実行は楽観的に」です。

楽観的に
ところで、何でこの画像にしたのか自分でも分かりません

理論編のまとめ

まとめます。

  1. 英単語を覚えるのは、単にきっかけ作りの作業なので、成果に期待しすぎない。
  2. 英単語の詰め込みは大変だから、必要性を本当に感じるまではやらないほうが良い。
  3. やるなら記憶のメカニズムについて理解しておく。特に、気の持ちようだけで相当変わる。

これらを踏まえた上で、実践編に進んでみましょう。

英単語の覚え方 実践編

私の推奨する方法は以下の通りです。自分に合う部分を使っていただければと思います。

  • 専用の単語帳を用意する
  • 必ず音と一緒に覚える
  • 覚える意味は1つに絞る
  • 時には訳語を自分で作る
  • カスタマイズする
  • インプットと確認のバランスを取る
  • 必要なときは徹底的にやる
  • 単語帳なしで暗唱する
  • 似たような単語は無視する
  • 必要なときは徹底的にやる
  • 暑苦しくやる

たくさんありますね! でも、1つ1つは簡単なことばかりです。以下に、具体的なやり方を解説していきます。

専用の単語帳を用意する

単語帳はとても役に立ちます。スマホのアプリ、紙の単語帳、どちらでも良いです。これを用意する理由は以下の通りです。

  • いつでも携帯して反復できる
  • 自分の覚えたい単語リストを作れる
  • 自分の好きなように『裏面』を作れる

単語学習は、頻度が大事です。通勤中、休憩時間、仕事の合間に、夜寝る前に……いつでもどこでも、思い立ったら取り組めるような環境を作りましょう。机の前にいかないと勉強できないとか、本やCD再生機器が手元にないと学習できないというのは、こと英単語学習に関しては、高確率で失敗の原因になります。

単語帳はトモダチ!
単語帳はトモダチ!

次に、自前の単語帳なら、自分が出会った、自分が覚えたい単語をどんどん登録していくことができます。この機能は極めて大切で、単語帳を自分で作る理由の最たるものです。一回出会ったことのある単語は、すでにそのイメージが頭にありますから、少し繰り返しをするだけで楽に定着させられます。このチャンスを逃す手はありません。

最後に、単語帳はカスタマイズ出来たほうが良いです(市販の単語リストは、訳語が合わないことがあります)。覚えにくい単語については、自分の中で単語のイメージが作りやすいように、訳語をカスタマイズしたり、例文を記録したりする必要が出てきます。場合によってはイラストを書いたりすることも効果的です。

どの単語リストを使うかについては、以下の記事に記載がありますので、よろしければお読みください。
本当の実力が付く、大人の英語学習法6つの原則

あらゆる単語をすべて単語帳に書き写さなければならないわけではありません。私の場合、まず単語リストを入手し、簡単なテストを数度行って、自分が「確実に」知っている単語を取り除き、残りを単語帳に書き写すということをやりました。

必ず発音と一緒に覚える

人類の歴史において、言葉とは、音のことでした。文字を使うようになったのはつい最近のことです。私たちの脳は、言葉を目だけで認識できません。たとえば、黙読しているときも、無意識のうちに口の中の筋肉が反応していることが分かっています。

発音できない単語を覚えることは苦痛でしかありません。

例:beige という単語の意味はわかりますか? 発音さえわかれば、これほど簡単な英単語もありません。

言葉とは音のこと
言葉とは音のこと

発音はある程度自己流でも良いです。しかし、少なくとも発音記号が「読め」ないとだめです。発音記号が読めるというのは「異なる記号を自分なりに区別して発声できる」ということです。

発音記号の読み方については別記事にまとめましたので、よろしければそちらもお読みください。
日本人のための英語発音の練習方法

音源がある教材を使うというのもひとつの手ですが、発音記号を読めたほうが楽です。単語学習はスピードとカスタマイズが大事なので、学習方法自体はできるだけシンプルにし、特定の教材に依存しない普遍的なやり方を身に着けた方が良いと思います。

私の場合は、どうしてもスペルから発音が推測しにくい単語については単語帳の表面に発音記号も一緒に書く、というスタイルでやっていました。

シラブルと単語のアクセントについて

単語を覚えるときは、特に、シラブルとアクセントを確実に押さえておくようにしましょう。

シラブルというのは、その語にある母音の数であり、英語のリズムを構成する拍のことです。たとえば phrase という英単語は、日本語だと「フ・レー・ズ」と3拍に感じると思いますが、英語ではこれは一拍しかありません。[fr ei z]です。

アクセントとは、どこの拍に強勢が置かれるかということです。

普通のスピードで話される英語というのは、発音記号通りとは限りません。感情の込め方、個々人のクセで異なります。たとえば早口の英語で「phraze」と話すとき、[feis]というように聞こえるかもしれません。人間は、その曖昧さを予測で補いながら聞いています。この予測をするとき、極めて大事なのがこのシラブルとアクセントです。

シラブルが違うと別の単語であり、アクセントが違っても別の単語になります。すごく乱暴に言うと、アクセントの位置と、アクセントの位置にある母音が正しければ、かなり適当に発音しても通じます。相手がその音から正しい単語を推測してくれるからです。たとえば compliant という単語は [əm pai ən] と発音してもおそらく通じます(文脈の助けがあるという前提ですよ、もちろん)。しかしここで、最初のシラブルにアクセントを置いてしまうと、絶対に通じません。推測も不可能です。

シラブルが分かるようになるると、まず発音の初心者卒業という感じです。

覚える意味は1つに絞る

単語学習の目的は、その単語に親しむことです。ですからすべての意味は覚える必要がありません。1つの意味を知っていれば、他の意味は遅かれ早かれ入ってきます。それは、何もないところから覚えるよりも、既に覚えているものに意味を追加するほうが楽だからです。

たとえば、confirm という言葉の意味を辞書で調べると、以下のようなものが載っています。

  • 1. ~を確かめる、確認する、~に念を押す、~にくぎを刺す
  • 2. ~を追認する、承認する、正式に発表する
  • 3. (決心・態度・決意・信念・意見などを)確かにする、強める、固める、支持する
  • 4. 《教会》堅信式を施す、授堅する

ピックアップする日本語の意味は1つで構いません。できるだけ曖昧に取れるものを選びましょう。ここでは「~確かめる」が良いと思います(たいていの場合、一番最初に出てくる訳語が適しています)。この例のように辞書から抽出するときはもちろん、単語リストに複数の訳語が記載されているような場合も、1つに絞った方が良いと思います。

辞書に載っている沢山の意味は、文脈と一緒になって初めて役に立ちます。特に辞書の後ろの方に載っている意味はしばしば「ある文脈ではこのような日本語として解釈するしかない」というような感じです(英単語と日本語の単語は本来1:1には対応しないのですから、これが起きるのは当然です)。これらを英単語学習で覚える必要はありません。文脈で学べば、単語のコアイメージが勝手にその都度更新されていきます。

英語と日本語を 1:1 で関連付けて覚える方法は、詰め込みにはそれなりに効果的です。1つの単語に複数の意味があるとき、それをすべて覚えようとすることは、効率が悪いです。

最終的には、英単語を見たとき、日本語を経由せずにイメージが直接頭に浮かぶという状態にしなければなりません。これはたとえば、tentative という単語を見たときに「仮の」という日本語が浮かぶのではなくて、「かりそめの・一時的な状態」という概念、イメージが直接頭に浮かぶという状態のことです。しかし普通は「現実に単語に何度か出会って」はじめてこの状態になります。

さて一方で、複数の意味を1つにまとめてしまうということも時には可能です。独自に訳語を作るということを私はよくやりました。次の項目もお読みください。

時には訳語を自分で作る

複数の訳語から意味を1つ選ぶよりも、より優れた訳語を生み出せる場合があります。独自の訳語は、複数の訳語から共通するイメージを抜き出すことで作ります。

たとえば、banishという英単語の意味を辞書で調べると、以下のようなものが載っています。

  • 1. (学校・家・国・団体などから)追い出す、追放する、流刑にする
  • 2. (恐怖心・心配ごと・嫌な考えなどを)払いのける

私がこの訳語から共通イメージを取り出すとしたら、たとえば「悪いものを外に出す」というようになるかと思います。

※ ちなみに、このイメージが「正しいかどうか」ということは、気にする必要がありません。イメージは実際に英語を見たり聞いたりする中でいずれ修正されていくからです。

言葉とは音のこと
「この単語もアレよ、なんか、マジヤバいって意味!」
「……君の語彙力けっこうヤバいね」

単語を学習するとき、このような活き活きとした表現を使えば、より定着しやすく実用的な形で覚えられます。辞書に載っている意味は「日本語に訳すときに対応する単語」です。単語学習で必要なのは「その単語が持つ根本イメージに近い表現」です。この2つは目的が異なります。上記の例で解説すると「悪いものを外に出す」という根本イメージは、ある文脈では「払いのける」という日本語になり、またある文脈では「追放する」という日本語になる、という感じです。

イメージの表現は、和訳をするときには使えませんが、和訳というのはそもそも英語学習ではありません。

体験談:語源暗記法について

個人的にはあまり役に立ちませんでした。

語源を知っていれば、確かに知らない単語でも大まかに意味をつかめる場合がありますが、少なくとも学習中においては、使った労力の割に実際に役に立ったケースが少なかったです。それは例外が多すぎるからです。

逆に、重要な語源については、特に勉強しなくても勝手に頭に入ってきていました。たとえば、disという接頭語が「否定」とか「分離」を意味することが多いのは、ある程度の必須英単語を知っていれば自然と分かることだと思います。

私なりの結論としては、語源の意味は「勝手に身につく」ものであって、特別に時間を投資する価値はないと思っています。

※「英語を学習し始めたばかり」というあたりのステータスの方であれば、時間を掛けすぎない限りにおいては、有益である可能性もあるのかもしれないな、とは思います。ただし「すべての単語について語源を調べていく」というようなアプローチは明らかに間違いだと思います。

カスタマイズする

覚えにくい単語とそうでないものは違います。自分にとって大事な単語と、そうでない単語も違います。動詞と形容詞では覚え方が異なります。

英単語学習は一律にやるのではなく、自分なりにカスタマイズしたほうが良いと思います。ここで、単語帳というシンプルなツールが効いてきます。

単語帳の裏面は、メモスペースにしてしまいましょう。イラストを書いても良いし、例文を書いても良いし。仲良くなりたい単語については手を掛けてあげてください。独自の訳語を作るというのも、カスタマイズの1つです。

一方で、全ての単語に八方美人をしていると疲れてしまいます。えこひいきしましょう。流れ作業用のカードセットと、大切なカードセットを分けてあげるというのもいいかもしれません。ピンと来ない単語については「お前は流れ作業行きだな」と冷たく突き放してしまいましょう。

あなたに効く学習方法は、あなたにしか分かりません。

体験談:英単語と例文について

「英単語は例文と一緒に覚えた方が良い」と良く言われます。このことについては、合っている部分もあるし、間違っている部分もあると私は思います。ここでは特に、いわゆる「例文型単語本」の体験を紹介します。

まず、よく出来た英文を読み、聴き、体に入れるのは英語学習の王道です。ですから、こういった例文を学習することそのものは、英語力の向上に役に立つのは間違いありません。

しかし、こと単語学習の文脈としてはどうでしょうか。

私は、サイエンス系の英単語を覚えるために、ある本を購入してしばらく使いました。結論としては、本をそのまま使うのはやめ、単語帳に書き写して覚える方式に変えました。なぜそうしたか。

まず、なんとなく理解できている気はするのですが「話の内容を理解しているだけで、単語そのものの定着度合いはそれほど高くない」ということが起きました。いざ単語単位で取り出してみると意外とあやふやだったり、別の文章でその単語が出てきた時になぜか意味が分からなかったり、ということです。もちろん繰り返せば定着しますが、思ったより時間がかかって進みませんでした。

「単語帳で覚え、その後文章を読んでスラスラ読めるかどうか確認する」という方式に変えたところ、定着のスピードは明らかに早まりました。このときむしろ、文章を読みすぎないように注意しなければなりませんでした。それは結局、ストーリーを丸暗記しているだけだからです。

「ストーリーを知っているので、単語の意味を逆に推測できる」というのは、単語を覚えるときに必要な心の動きとは逆だ、という気がします。

例文型単語本については、ゆっくり自分のペースで、単語だけでなく英語の総合力を伸ばすためにやるのであれば、良いとは思います。しかし、個人的にはおすすめしません。その目的なら、普通に(自分のレベルに合っているか、自分のレベルよりやや上の)英文を読み続けるほうが良いと思うからです。

※ といっても、そのような方式がご自身に合うと思われるのであれば、躊躇する必要はありません。「自分を知る」ことは、英語学習の大原則の1つです。

インプットと確認のバランスを取る

単語帳の使い方は「インプット」と「確認」に分かれます。この2つのこのバランスはほどほどに調整しなければなりません。

インプットとは、ブツブツ言いながら、意味を刻み込むように単語帳をひたすら眺める、といったようなことです。一方で「確認」というのは「表面を見る → 意味を考える → 裏面を見る → 合ってた! 間違ってた!」というような作業のことです。

このプロセスは両方必要です。インプットばかりだと、慣れてしまって、覚えたと勘違いしやすいです。しかし「確認」は、精神的にかなり疲れるので、こればかりやるのも挫折の原因になりやすいです(覚えているかどうかあやふやなものをテストし続けるのは、それはツラいに決まっています)。

従って、疲れたら、単に眺めるモードに移行するというのが良いと思います。単語帳は読むだけで効果があります。人間の脳とはすごいもので、特に意識していなくても、勝手に覚えてしまうこともよくあります。そういうラッキーが起きることを期待して、どんどん読んでみましょう。「すぐ答えを見る」ことを躊躇しないということです。

単語帳なしで暗唱する

この方法は、時間効率は落ちますが、しかしより強く定着させられます。

英単語を見るというきっかけがあってから意味を浮かべるよりも、何も手がかりがないとこから両方を取り出す作業の方が、より脳がその単語の必要性を強く認識するからです。

やり方としては、タイミングとかは何も計算せず、常に頭の隅のどこかに単語を置いておいて、機会があるたびにつぶやく、という感じです。あるいは、単語帳から一旦目を離し、しばらくしてから英語と日本語の意味を両方暗唱するというのも1つのやり方です。

思い出そうとする
conjecture ...... 推測!

私の個人的な体験としては、これをやった単語は、短いと3日、どんなに長くても1週間程度で「完全に定着した」という感覚になります。

似たような単語はいったん無視する

たとえば、以下の2つの単語は、スペルも音も似ています。

  • deprave[動] 堕落させる
  • deprive[動] 与えない状態にする

このような単語は、よくつまづきの原因になっていました。今になって考えると、時間の無駄だったと思います。似たようなものを同時期に覚えようとすると、定着の妨げになります。この現象を記憶の干渉といいます。

同様の理由で「類義語もセットで覚える」というようなアプローチは私は苦手でした。

「あなたが昨日デートしたのは」「サラ? それともジェシカ?」
「あなたが昨日デートしたのは」
「サラ? それともジェシカ?」

こういった単語がリストに出てきたら、ひとまず片方を後回しにするくらいで丁度良いのではないかと思います。片方が完璧に頭に入ったら、残りはさほど苦労せずに覚えられます。

たとえば deference(敬意を持って服従すること)という単語がありますが、difference(違い)という単語と似ているにも関わらず、上記のような干渉問題は起きませんでした。おそらく、片方がすでに定着済みだったからだと思われます。

必要なときは徹底的にやる

本当に一気にレベルを上げたいと考えるのであれば、数千語を数ヶ月で詰め込む、というのも時には良い方法です。このような詰め込みをボキャビル(ボキャブラリー・ビルディング)と呼びます。

ボキャビルはモチベーションとの戦いになりがちなので、できるだけ短時間で駆け抜けたいです。私がボキャビルを試みたときは以下のようにしていました。

  • 200語くらいのリストに分け、1日で最低3周くらいはやる(スキマ時間を見つけ次第、すぐ単語帳を見る)
  • 覚えにくい単語は、特別なカードセットに移動して、5分おきに10回くらい見る
  • 特に覚えたい単語は、単語帳なしに英単語を暗唱し、意味のイメージを刻みつける
  • 一度「覚えたかな」と思った単語でも3日に一回は全復習する
  • 「もう覚えただろう」と思った単語でも2週間ごとに全復習する
  • できるだけ同レベルの文章を平行して読むようにする(出会いを増やす)

結果、2ヶ月後の段階で、およそ3000語のうち90%くらいの単語については、目で見てすぐ意味が浮かぶ状態になりました。

ちなみにこのうち10%くらいは、今は忘れてしまいました。しかし全く困っていません。なぜなら、その単語は私の生活には出てこないものだからです。また、忘れてしまっていても、心の奥底には残っている感じがします。どういうことかというと、こういった稀な単語が文章の中で出てきたときに「あっ、これは一度覚えた単語だ」と気付きますし、また意味を再学習したときに、定着する確率が高いです。

この中で特に重要なのが「復習」です。単語は、一度覚えたと思っても必ず忘れます。特に、ボキャビルのような詰め込みをしているときはそうです。「もう完璧だと思うけどな?」というところからさらに繰り返して、初めて定着したような気がします。覚えているものの確認作業は、気分が良いこともあってそれほど苦労しません。これを繰り返すかどうかが鍵だと思います。

上記のようにかなりの情熱と努力をもってして、ようやくボキャビルを私はこなせたわけですが、このような努力を半年とか1年続けろと言われたら、正直それは厳しかっただろうと感じます。

体験談:忘却曲線について

忘却曲線の理論そのものは、ある程度真実だと思います。つまり、一定期間を置いて復習を繰り返した単語は、確かに忘れにくいです。

その一方で「忘却曲線に従った学習ができるサービスやアプリ」は、軒並み続きませんでした。特に、1つの単語を学習するためのステップが長いサービスは、あまり良くありませんでした。一度覚えたものを復習するには時間がかかりすぎるからです(それに、単語学習にそこまで時間をかけたくありませんでした)。ボキャビルを成功させるには、繰り返しのプロセスが単純でなければなりません。

さらに「忘却曲線理論通りの提案」では、不足することがままありました。これはおそらく、通常ではありえない量をやっていたからだと思います。ボキャビルの場合は、ひたすら愚直に繰り返した方が良い結果が出ました。

単語学習というのは身軽さが身上だと思います。いつでも、どこでも、自分が思い立ったときに、自分のペースで好きなだけ学習できるという方が良いと思います。ツール任せだと、自主的に学習を工夫しているという実感が乏しく、責任感が失われがち(人のせいにできる)なのが、なかなか続かなかった理由の1つかもしれません。

暑苦しくやる

この記事全体を通して、単語学習のハードルを下げてきました。しかし、ここまでハードルを下げてもまだ苦痛感はあります。見慣れない情報を沢山入れるというのは、それだけ無理があることなのです。特にボキャビルのような促成栽培を行うときは大変です。そこで、この辛さを乗り越えるために「無理やりテンションを上げてしのぐ」という方法があります。

(向き不向きがあるかもしれませんが)私の場合は以下のようにやりました。

例その1: Vicious(悪辣な). 山田! お前のことだよ!クソッ腹立つ! Vicious! Vicious山田! クソッ! クソッ!

例のギャング

例その2: Persecute(迫害する). Persecute! なんか魔法の呪文みたいかも。Persecute! (想像上のワンドを出来の悪い生徒に対して振りながら。気分はスネイプ先生で。pの破裂音を必要以上に強調しながら)

例その3: Snail(なめくじ). (コップ一杯のなめくじを飲まされる、という拷問を受けることを想像しながら) No! No more snails! うわあああああああああ! Snails!!

私は変態ではありません。何が言いたいかというと、五感を総動員する、ということです。単語には実際の現場で出会うのが一番良いのですが、ボキャビルの文脈だとそれは難しいので、できるだけ実感に近いものを脳内で再現する、ということです(実際には起きていないことなので、実感度を無理やり増すために、上記のように強調したほうが良いと思います)。このように単語学習をしている姿は絶対に人に見られたくないという感じです。

心が動かないあらゆる「記憶法(たとえば、語呂合わせなど)」は、一夜漬けには良いですが、結局消えていきますし、実際の役にはあまり立たないです。気持ち、イメージと言葉をつなげることが実践的な英語力向上に役に立つ唯一の方法だと思います。

おわりに

英単語の覚え方について、たくさんのTIPSを紹介してきました。大まかにまとめると、以下のような感じです。

  • 一気にレベルを上げたいとき以外は、ほどほどのペースで楽しみながらやる
  • やる時は、音、感情・イメージなど五感を働かせながら覚える
  • 自分で自分に必要なカスタマイズをする
  • つまり、大人の知恵と計画性をもって、子供の好奇心を武器に覚える

進捗も分かりやすいが、同時に挫折もしやすい分野です。ぜひ、あなたにとっての正しい方法を見つけてください。この記事の内容が少しでもヒントになれば幸いです。